リビングの時計は、9時50分を指していた。
部屋には人が居ないときの特有の静かさがある。
静かに溜め息をついた真由美は、微かに家の匂いを感じた。
そういえばこんな香りだったと、たった数日しか経っていないのに懐かしく感じる。
ふと、真由美の目が姿見を見た。
そこにはリビングに立ちつくす女が写っている。
いつもはわざと野暮ったい、体のラインを隠す服ばかり着ているのに、今の姿はまるでホステスだ。
乳房の膨らみが見えるほど胸元の大きく開いたブラウスに、黒いブラが透けている。
スカートのスリット腰まで切れ上がり、男を誘っているようにしか見えない。
ホームに並んだスーツ姿の男達は、私を仕事帰りだと思ったかもしれない。
鏡に写る自分を見ながら、真由美は そんな風にぼんやりと思った。
見てわかるほど安っぽい生地に、場末の安いスナックでも連想しただろうか・・・
尻を撫でる酔っ払った中年男に微笑み、胸を触ろうとする男に笑うような、安い女だと思っただろうか・・・
そんな事を考えている真由美の顔には、また自嘲の笑みが浮かんでいた。
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