バスは立派な正面玄関の前にあるバス停に停まった。
専用バスが出る程の人が、毎日行き来していると思うと身が引き締まる思いがした。
バスを降りて歩道を進むと大きな玄関とエントランスが私を迎えた。
本来、関係者は時間外出入口なんだけど、私はまだ部外者・・・OBだけど・・・。
エミと約束した、一階の喫茶店で待つ事にする。
待っている間も、まるで小さな町の様な光景が目に入った。
普通の町と違うのは、パジャマに上着と言う入院患者の数だけだった。
注文したコーヒーが来て飲んでいると、エミが現れた。
もう帰るだけの様な格好・・・婦長に夜勤はない、それに・・・装身具も高そうな物ばかり
あれだけの重労働を続けて勝ち取った地位なんだ、そりゃそうかと理解する。
『ちさと・・・久しぶり・・・元気だった?』
『エミ・・・こっちこそ久しぶり・・・婦長昇進おめでとうございます・・・』
『ありがとう・・・今年やっと成れたのよ・・・時間が掛ったわ・・・本当なら、ちさとと争っていたかもね・・・』
『私には無理よ・・・エミには勝てないよ・・・』
『さて、森高さん言っておいた履歴書は書いてきてくれた?』
『うん、これだけど・・・』
『うん、これで良いわ・・・森高さん、これからは婦長と呼んでくれる?・・・他の人に示しがつかないから・・・』
『判りました・・・婦長・・・』
会ってすぐに、エミの変貌に気付いた・・・確かに旧知の友人であるが、音信不通になって婦長になった途端に私に声を掛ける
今更ではあるが、馴れ合いは無しだと言う事を暗に物語っていた。
『じゃあ、用件はこれだけ・・・一週間分のシフト表と契約条件書、多分旦那様の扶養家族からは抜かれる事になるわ、幸い健康保険は
多分一緒ね・・・じゃあ、ここの払は私が払っておく・・・来週朝七時にはナースステーションに来て、案内と制服を渡すから・・・』
エミはそう言うと私を振り向かずに店を出て行った。
私はヨウスケに電話を掛ける・・・。
『ヨウスケ・・・今終わったの、何時頃帰れそう?・・・』
『ごめん・・・緊急のオペが入ったんだ・・・先に帰ってくれよ・・・』
周りから慌ただしく動く人の気配がする・・・きっと急なお仕事なんだと今度は時間外出入口から出てバスに乗って帰った・・・。
初夏という事もあり辺りはまだ明るい・・・冬になれば寂しくなるんだろうな・・・。
バス停と駅で時刻表を貰って家に帰った。
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