【21】
応接室の壁に掛けられた時計が故障している為に、確認出来なかった。
約2時間に及ぶ淫攻だったが、幸子にとっては永遠に感じたのだから時間感覚が狂うのも無理はない。
しかし、正直いうと時間の確認はどうでもよかった。
何もしていないと、嫌でも犯された現実に直面してしまう。
感情を殺し、他の事を考えれば少しでも気が紛れると無意識に判断したのだ。
ゆっくりと、身体を起こす幸子。
やはり、豊乳と膣内の疼痛は無視出来ない。
立ち上がってみると、激しい淫攻の影響は顕著に出ていた。
身体中が重く、足元がふらついてしまう。
踏ん張らないと立ち続けるのも難しい程、消耗していたのだ。
それでも、幸子は抗う様に足を前に進めた。
辺りには、幸子の衣服が乱雑に散らばっている。
濃紺のスーツとスカート、白のYシャツ、ベージュのストッキング、黒のハイヒール、濃紺のブラジャーとパンティー。
幸子が進んだ先にあったのは、濃紺スーツだった。
そのスーツのポケットに入っている携帯電話で、時間を確認しようとしたのだ。
幸子は、携帯電話を取り出した。
[22時10分]という数字が、視界に入る。
これを長時間と捉えればいいのか短時間と捉えればいいのか、判断は難しい。
永遠に感じた割には、2時間程かという見方も出来る。
だが、本来ならあれだけの淫攻を2時間も受け続けたのかという見方が正しいはずだ。
それに、22時を過ぎている時間帯もあり得ない。
何事もなければ、今頃は既に自宅で過ごしていたのだ。
どう考えたって、この状況は異常である。
しかし、幸子は敢えてそれを考えない様にした。
何故なら、普段通り帰っていれば家族団欒という幸せが待っていたからだ。
家族の事が頭をよぎると、今は耐えられそうにない。
気丈に澄ます為に、幸子の防衛機制が働いたのだろう。
ところが、皮肉にも今の幸子にとって余計なものまで見えてしまった。
携帯電話の画面に、着信履歴があったのだ。
幸子は、すぐに理解した。
恐らく、いや、きっと由英に違いない。
実は原井に犯され続けて意識が遠のく中、着信音は聞こえていたのだ。
更に、そのあと程無くして教習所の固定電話も鳴っていた様だ。
由英だと、直感的に分かった。
だが、あの朦朧としていた状況では為す術など無い。
もしかしたら幻聴かもと思っていたが、やはり現実だった。
帰宅した由英に、電話があったと晶が伝えたのだろう。
どちらにしても、こんな汚濁液にまみれた姿で由英と会話など出来るわけがない。
いくら電話越しとはいえ、気丈に振る舞うにはまだ時間が必要だった。
そんな幸子に、予想外の出来事は突然起きる。
携帯電話の着信音が、鳴ったのだ。
幸子は、驚いた拍子に思わず押してしまった。
とはいえ、これは電話の着信音ではない。
メールの着信音だという事には、すぐに気付いた。
幸子は、ホッと一安心する。
しかし、携帯電話の画面に出たメール内容に、幸子は胸が締め付けられそうになった。
相手は、もちろん由英だ。
《ごめん、いつの間にか電源が切れてて気付かなかったよ。
急用の電話みたいだったって晶が言ってたけど、何かあったのか?
困ってるなら、すぐに行くぞ。
とにかく、心配だから連絡が欲しい。》
この文面を読む限り、由英に予定をすっぽかしたという自覚は全く無さそうだ。
パソコンの返信メールがある以上それが何よりの証拠ではあるが、どうにも釈然としない。
だが、今の幸子にそこまで推考する余裕は無かった。
由英の優しさが溢れたメールに、幸子は罪悪感に苛まれたのだ。
自身に非は一切無いのに、何故こんな仕打ちを受けなければいけないのか。
何とか保っていた平常心が、一気に崩壊した。
涙を堪えきれず、慟哭する幸子。
誰も居ない夜の教習所に、幸子の咽び泣く声だけが虚しく響いていた・・・。
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