横山はそっぽを向いたまま、何かをブツブツと呟いていた。
しばらくの間そうしていたが、思い出したように俺を見て、自虐的にニヤリと笑った。
「つまり、俺に勝ちは無くなった・・・ま、それだけだよ・・・・・それだけだ」
俺は何も言えずに黙っていた。
俺よりも先に由美さんを見つけ、俺よりも長く由美さんを相手にした男。
やり方は決して褒められたものじゃなく、内容は悪意に満ちていたが、ある意味で俺よりも由美さんを理解し 由美さんの望む通りに導いた男。
その時の俺は、横山をそんな風に感じていた。
「・・・まぁ・・・お前に その『勝ち』があるかどうかは、まだ分からないけどな」
「・・・どうして?」
「おいおい・・・旦那と別れて、子供を捨てるんだぜ?・・・ここら辺にそのまま住むってのも無理だろ?」
「・・・・・・」
「引っ越すってさ・・・場所は教えなかった・・・てか、決まってもないだろうな・・・」
「・・・引き留めなかったのか?」
横山は俺を睨んだ。
けれど何も言わなかった。
ただ、最後にホテルの名前を言った。
「分からんけど・・・たぶん・・・」
そう前置きをして、あの雰囲気なら1202号室だろ・・・と言った。
「再出発のための最後には、初めて客をとった部屋に泊まるかもな・・・」
その言葉を聞いた瞬間、俺は居酒屋を飛び出していた。
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