平日の昼間、ホテルのロビーは閑散としていた。
俺は退屈そうな顔をしているフロントマンの前を通り過ぎ、エレベーターに乗り込んだ。
宿泊施設のチェックインには早すぎる時間・・・男は昨日から泊ってる客だとでも思ったのか、よく確認もせずに俺を通した。
15階建てのホテルを、上から順番にウロウロと徘徊した。
エレベーターを降りては耳を澄ませて廊下を歩く。
そんな事を繰り返し、11階でようやく目的の部屋を探し出した。
廊下に漂う小さな音の、題名もわからないクラシック音楽・・・
そんな音にも掻き消されそうなほど微かに、けれど確かに女の喘ぎ声が聞こえてくる。
俺は扉に書かれた部屋番号を暗記すると、足音を立てないように後ろに下がった。
エレベーターに乗りフロントに向かう。
「あの、1103号室か1105号室・・・どちらか空いてますか・・・」
フロントマンは少し怪訝な顔をし、けれどプロらしくすぐに表情を隠した。
「どちらもご用意できます。ただ、ダブルルームとなっておりますが・・・」
平日の昼間、疲れ切った顔のサラリーマンが使うには大きすぎるベッドだとでも思ったのだろうか。
俺はどう返事していいかわからず、無言で料金を支払った。
時間は2時38分・・・
俺は顔に汗が滲んでくるのを感じながらエレベーターに向かった。
部屋の扉を閉めると、廊下に流れていたBGMが聞こえなくなった。
そのせいか隣の部屋の音が、廊下で聞くよりもはっきりと聞こえる気がした。
俺は鞄をベッドに放り出して壁に駆け寄った。
ゴクリとツバを飲み込み、自分の耳を壁に当てた。
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