「・・・ねぇ、ちょっと・・・どこに行くの・・・?」
由美さんは不安そうな顔で俺を見た。
俺は左手で由美さんの背中を押しながら、右腕に茶色いニットのワンピースを掛けて歩いていく。
「ちょっと・・・・ねぇ、どこ?・・・・どこに行くの?」
由美さんは恥ずかしそうな顔でキョロキョロと周囲を見る。
歩きなれたはずの道を 俺に押されて歩いていく。
「・・・ねぇ・・・ねぇってば・・・」
「ダメだよ・・・ほら、ちゃんと押さえてないと・・・」
そう言うと、由美さんはハッとした表情になり、コートを押さえている両手をギュッと強張らせた。
右手で胸元を、左手で腰のあたりを押さえている。
けれどボタンを止めさせてもらえなかったコートは、由美さんの足が一歩前にでるたびに はだけていた。
横に立つ俺にわかるほど、黒いコートの間から白い足が・・・その付け根までがチラチラと見えている。
「・・・恥ずかしい?」
由美さんは俺の目を見ながら小さく頷いた。
「でも、まだだよ・・・・まだ・・・・ほら、こっちだ・・・・」
そう言って、俺は由美さんの住んでいるマンションの玄関・・・自動ドアの前に立った。
エレベーターホールに行くと、扉の前に男が立っていた。
その顔は見れなかったが、もしかすると学生かもしれない・・・と、服装を見ながら思った。
呼び出しボタンはすでに押され、デジタル文字の階数表示が6、5、4、と変化していく。
静かなモーター音だけの空間で、由美さんの両手が静かに、キツくコートの前を重ねて押さえた。
男の背中を見つめ恥ずかしそうに唇を噛みながら、けれど興奮した顔で立っていた。
エレベーターが1階につき ガタンッ音をたてて扉が開いた。
自然と、前に立っていた男が先に乗り込み、こちらに振り返りながら6のボタンを押した。
俺は由美さんの背を押しながら9のボタンを押し、そのまま若い男の奥まで進んだ。
自分の階よりも上の住人が自分の後ろに・・・エレベーターの一番奥に立つことに、違和感など感じるはずがない。
若い男はこちらをチラッと見ることさえせず、締まっていく扉を見ていた。
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