1杯目のビールを、ゆっくりと時間をかけて半分ほど飲んだ頃から、小百合はポツポツと話し始めた。
もしかしたら酒に弱いのかもしれないと、少し赤くなった顔を見ながら話しを聞いた。
旦那が浮気している。
もう何年も女として見られてない。
このまま『妻』をして、このまま『母』をして、このまま終わっていくのだろうか・・・
そんなありふれた、そして深刻な悩みを打ち明けていった。
紗季や由紀も同じような悩みを持っていたが、2人はある意味吹っ切れていた。
友人としてのお互いの存在があったからかもしれないが、とにかく自分の中で歪ながらも完結していた。
しかし小百合は、たった今も悩んでいる最中なのだろう。
紗季にとっての由紀、由紀にとっての紗季のような存在もなく、たった一人でドン底に落ちているのだろう。
俺はそう思いながら、その弱ってしまった心の割れ目を、丁寧に割いてやろう・・・と決心した。
「そんな事ないよ、魅力的だよ」
「ホントだって。だってあの日、俺は手を伸ばしただろ?・・・まぁ逃げられたけどさ」
「そう、触りたいって思ったんだよ。・・・この『女』の胸を揉みたいって思ったから、何回も手を伸ばしたんだよ」
「嘘じゃないって、魅力的な『女』だよ」
「興奮してるよ。わかる?」
「そうだよ。この『女』を抱きたいって考えてる」
俺は小百合を「奥さん」や「お母さん」ではなく、ましてや名前ですらなく、ただ『女』と表現し続けた。
そして弱った心につけこみ、旦那の過失とアルコールの力に助けられながら、残業になってしまったと家族に嘘のメッセージを送った小百合の腰に手を当てながら居酒屋を出た。
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