玉置の自宅兼仕事場は、克司達が住む街から車で5時間。
金曜日の夕方に家を出て、着いたのは深夜になっていたが、玉置夫婦は温かく迎えてくれた。
個人の家としては豪華な浴室で身体を温めた後、軽くアルコールを振る舞われた。
さすがに蓉子は緊張していたが、奥さんが優しく雑談で気持ちを解してくれる。
「初めてのヌードのモデルって、それは緊張して当たり前よ。
私なんか、若い時に泣き掛けて大変だったわ。」
玉置の奥さんは、若い時から絵画や彫刻、それに写真でもヌードのモデル経験があった。
母子家庭だったが、母親がやはりモデルだったことから、ある画家のモデルを勤めたのがきっかけだ。
「おいくつの時からですか?」
蓉子が尋ねると、
「18歳、と言うことになってるけど、本当は13だったの。」
と笑いながら答えた。
「その方が、少女から大人へと変わっていく姿を描きたいっていってね。」
「まあっ!」
「母が側で付き添ってくれたから、ちゃんと務めないと母にも悪いなって頑張って、ポーズとか決めてもらったんだけど」
「いやらしいポーズだったんですか?」
「いえ、長椅子に仰向けに横たわってるだけ。
でも、それを足の方から見られるのよ。」
「足は?」
「自然に閉じてたわ。
それに、最初はあそこのところに、薄い布が掛けられる筈だったの。」
「あそこは、隠してもらえたんですか?」
「それがね、途中で画家の方が、やっぱり違う!って、外されちゃったの。
私、その時少しだけど発毛しててね、そこを透けそうな薄布でも隠してもらえるのと丸出しにされるのでは..」
「大変だったんですね。」
「でも、次からは母は来なくて、私だけで行ったの。
子供心に、恥ずかしくても頑張らなくちゃ、って思ったのよ。」
「じゃあ、お一人で裸に?」
「そうよ。
私もそんな経験してるから、貴女の緊張するのも分かるわ。
でも、私に母が居てくれたみたいに、貴女には優しい旦那さんが居てくれるじゃない。
辛くなったら、旦那さんの顔を見ると良いわ。」
奥さんの話で、蓉子の緊張が完全に解けた訳ではないが、かなり気持ちは楽になった。
「それと、モデルしてる時に何かかったら、私も同じ部屋に居るから、私に言って。
女には、旦那さんにも言えない事ってあるのも分かってるわ。」
蓉子は、たとえばお手洗いとかかな..と思って、小さく笑うことまで出来たのだった。
玉置と克司は、ウイスキーを飲みながら話をしたが、その中で玉置は、
「私からのお願いだが、是非今夜、奥さんを抱いてあげて欲しい。」
と克司に頼んだ。
「あの温泉で見た奥さんの魅力は、奥さんがきれいなだけじゃない筈と思っている。
旦那さんである君が、自分の妻の魅力を引き出した結果だと思うんだ。」
克司はあの夜の事を思い返し、妻の愛らしい痴態を思い浮かべると、再び身体も心も熱くなった。
「しかし、私があれを激しく抱いて、肌に痕が残ったりしたらまずいのでは?」
「写真と違うよ。奥さんをモデルにはするが、それを私のイメージで彫るんだから。」
「ああ、そうでしたね。」
そもそも考えてみれば、裸体の女性の彫刻で、あの部分まで克明に彫り込まれているものは見たことがない。
たとえ今晩蓉子を縛って痕が残っても、全体の雰囲気が美しければ、それで良いと言うのだろう。
ところが玉置は克司がドキッとすることまで言った。
「縄目が着いたままでも構わないよ。
以前私も、妻を縛ってモデルにしたことがある。」
目を大きく見開いた克司に玉置は、
「あれは、信じる夫から縛られてるから、可愛いんだな。
私の技量では、嫌な相手から捕らえられ、これから犯される運命の女を美しくは作れないよ。」
と微笑むと、微笑みながら蓉子に話しかける妻に温かい視線を向けたのだった。
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