蓉子はやっとの思いで浴槽に浸かった。
洗い場の床から、片足づつ浴槽に入れるギリギリの時まで、タオルで陰毛を隠そうとしたが、夫からさりげなく、しかも優しく
「タオルをお湯に浸けるなよ。」
と言われて、慌てて外した。
少しくらい段差を降りても、蓉子の陰毛は赤い亀裂の内側まで周囲に見せないように守ってくれてる。
しかし蓉子にとっては、片足を浴槽の中に浸ける行為で、自分のいやらしく醜い性器の中が、他の入浴客に、いや、すぐ側にいて見守ってくれてる夫の目に見えてしまうのでは?との著しい羞恥に押し潰されそうだった。
それだけに、夫のすぐ側に寄り添ってお湯の中に肩まで浸かると、まだその身は全裸なのにも関わらず、心はほのぼのとした安心感に包まれた。
温泉のお湯は、硫黄泉のような白濁したものではなく、無色透明透明だった。
だから、お湯を通しても充分入浴中の人の裸体を見ることができる。
それでも蓉子は、夫の傍らで暖かいお湯に浸ることで、それまでの緊張が解されていくのを感じていた。
少し落ち着いて周囲を見ると、広い浴槽の中に数人の人が浸かっているし、洗い場で身体を洗ったり、石の洗い場の床に座ったり、岩に座ったりして休んでる人もいる。
女性も数人いたが、蓉子達と同じで夫婦者らしく、皆側に同じくらいの年齢の男性がいた。
それ以外は単独の男性らしい人が五.六人。
蓉子はそんな男性と視線を合わさないように、顔を伏せた。
広い浴槽は、築山を回って、蓉子達が浸かってる所から直接見えない向こう側まで広がっている。
さっき先に入った若いカップルは、そちらの方にいるらしく、大きな声でふざけた話をしているのが聞こえてきた。
「博人ー!タオル、返せー!」
「だめだね、タオル返したらお前、身体隠しちゃうじゃん。」
「自分の彼女を晒し者にするなんて、信じられないー!」
克司も蓉子も、さっきこの二人が脱衣場から浴場に裸で出ていく時、ちらっと見たが、女性の方は下腹部のあるべき所に毛がなかった。
最近はセックスとは関係なく、清潔面や美容面で、そのようにする女性がいるらしいことは、克司達も知っていたが、こんな明るい温泉で実際にそんなカップルを見ると、生々し過ぎると言うか、何か場にそぐわないような感じだった。
克司達はしばらくお湯に浸かり、やがて湯から出て、身体を洗うことになる。
やはり蓉子は、お湯から上がるのを羞恥した。
しかし、夫はお湯から出て、蛇口の洗い場の方に行ってしまう。
裸のまま夫から離れるのは、心細いと言うか、こんな明るいところでも、やはり恐い。
蓉子は浴槽の側に置いていたタオルを取ると、また胸と下腹部を必死に隠しながら、夫の後を追った。
夫が浴室用の腰掛けに座って髭を剃っている間に、蓉子は洗い場の床に横座りして、手早く髪を洗う。
家のお風呂に一人で入る時は、蓉子も浴室用の腰掛けに座るが、浴室用の低い腰掛けに座ると、どうしても両足を大きく広げることになる。
もちろん蛇口の方を向いてるのだから、直接広げた足の間を見られるわけではないのだが、こんな場所で全裸で両足を広げるなんて、蓉子にはとても出来なかった。
俯いて頭からシャワーを浴びてシャンプーを流してる間にも、背中に多くの視線を感じた。
やっとリンスを洗い流して顔を上げると、隣の夫から
「背中を流してくれ。」
と言われた。
夫は優しくしてくれるが、自分は奴隷妻になったんだった!
ご主人様が、背中を流せと命じられたんだから、ご命令にしたがわなくちゃいけないわ。
夫からのこの命令は、ある意味蓉子の羞恥に対する不安、恐怖を和らげてくれた。
蓉子は意を決して、タオルを持って立ち上がった。
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