「その人の逮捕と私が何の関係があると言うの?」
「奥さんと直接関わりのある話じゃないが、ワシとの関係で繋がることのなったのですよ。
桜木会の組長は極道の中の極道、悪の極みという奴でした。なかなかシッポを出さんので、あの手、この手で
逮捕までこぎ着けたのですな。今でいうオトリ捜査や司法取引を駆使しましたよ。合法ではない方法でね。
それでようやく刑務所にぶち込んだ。ところが組員のウラミをワシが買ってしもうた。ある日妻と娘と三人で買い物に
スーパーに出かけたところを、駐車場でヒットマンに襲われた。その時、妻と娘が犠牲になってしもうたのです。
娘はまだ中学生でしたよ。ワシも重症でしたが運よく急所を逸れて助かったのです。
ある日、聞き込み捜査中にヒットマンの男とパチンコ屋で出くわしました。あとはよく覚えとらんのですが、
気が付いたらワシは男の死体の前で拳銃を持って立っていた。銃弾6発を使い果たしてね。
所長がいろいろ書類を作ってワシをかばってくれましたが、結局、依願退職で決着がつきました。
そのあとは、何をやってもうまくいかず、一時はホームレスにもなりましたよ。ところが、昔犯罪に
巻き込まれそうになってワシが助けてやった土建屋の社長が、自分のところで働かないかと言ってくれた。
この部屋はその土建屋の社長の別荘の地下室です。
その土建屋も時代の流れにについて行けず、3年前に廃業しました。そして社長は2年前から認知症に
なって施設に入りましたが、その前に退職金代わりにこの別荘をワシにくれたのです。」
「あなたが大変な人生を生きてきたのは分かったわ。でも、何故私にこんなことをするの?」
「ごもっともですな。それは、ある日公園のベンチに休んでいたら、近くでワシくらいの年齢の男が孫らしい女の子と
遊んでいたのですな。3歳くらいの可愛い女の子でした。ワシの娘も生きていたら、同じようにワシも孫と公園で遊べたものを。
そう思うと急に世の中が憎らしくなった・・・社会のためにと身を犠牲にして生きた結果がこれかと・・・
そこでワシはある計画を思いついたのです。自分の子供をもう一度つくる方法をです。」
男のそのことばに私は全身が凍り付きそうになりました。その瞬間、男が私に何をしようとしているのか分かったのです。
「もう、お分かりになったでしょう。奥さんにはワシの子を産んでもらいます。その子が1歳になるまではここで生活するのですよ。」
「きっと警察に見つかるわ。あなたもすぐに刑務所行きよ。」
「それは、どうですかな? まずご主人はワシが誰か知りませんな。大和田は偽名です。スマホも足のつかないもの、中国製の偽造品です。
車もナンバープレートは変えてますしな。監視カメラも映らないよう道を選んでおる。これでも元刑事ですからな。
奥さんも今日はゆっくりしてください。あとで食事を持ってきましょう、何か必要なものがあればできるだけ用意しますから。
それと今夜は何もしませんから。奥さんのハンドバッグにピルのケースが入ってましたからな。薬の効果が切れるまでは
種付けはしませんよ。もう一つ、逃げようとしても無駄ですよ。ここは釣り好きの社長が無人島を購入して建てた別荘ですから、
周りは海ですよ。」
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