妻は受精が終わると、シャワーも浴びずに花柄のワンピースを着て、会長に丁寧にお礼を言い部屋から出て行った。
もし1度で受胎しなければ、同じことを繰り返すことになる。正直、俺には相当に過酷な現実だった。だが、永遠に続く訳でもないことは
確かだ。妻が妊娠すれば、それから一定期間は俺以外とセックスする事は無くなるような気がした。 もしかすれば、もうクラブに戻らないかもしれない。
高齢の会長は疲れたらしく、しばらく休んで帰ると先生に言っていた。俺が帰ろうとすると大城が俺を引き留めた。
「この際ですので話しておきたいことがあります。」
大城は神妙な表情で話し始めた。
「会長の跡取りの子のことですが・・・・実は卵子を提供したのはあなたの奥さんなんです。」
今日は驚く事の連続で、普段は鈍感なタイプの俺の神経も理解力の限界に近かった。
「なんだって? し、信じられん!」
「もっとも、それは奥さんがあなたと結婚する前のことなんです。」
帰りかけていた俺は再びソファーに座り込んだ。何だって? 受精が成功し子供が生まれたら、その子には両親が生物学的に同じの兄がいることになるのか。
しかもその兄は富豪の後継者なのだ。その子は俺と妻が自分たちの子として育て、成人するまではその真実を知らないのだ。
俺には一つの疑問が浮かんだ。
「妻は俺が結婚する前から、この秘密クラブに入っていたのですか?」
大城は即座に否定した。
「それは違います。会長も最初はクラブの正式な会員ではなかった。クラブ会員に誘われてたまたま参加した時に、研修医が引き込んだ奥さんを見つけて
クラブに正式に入会したのですよ。まさに、これは奇縁というやつですな。」
その説明を聞いても俺の混乱した頭には何がどうなのか、すぐには理解できなかった。
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