それから何日かして、大城からラブホの3階の部屋で、会長が医師の立ち合いのもと妻に受精すると伝えてきた。
俺がマジックミラーの向こうから、妻には知らせずに立ち会う段取りだった。大城から知らせのあった同じ日の夜、
妻は俺に明日排卵日なので精子提供を受けると話し始めた。
「ホテルで受けることのになったの。セキュリティーの関係らしいの。わたし、一人で行ってくるね。」
「俺が立ち会わなくていいのか?」
「提供者の希望なの。お医者さんがやってくれるから、心配しないでね。」
俺はそれ以上何も聞かずに承諾した。会長がどんな人か知らないが、その時になればわかるはずだ。
翌日会社を休んで、早めに大城のホテルに入った。妻や会長が来るまで、焦りに似た気持ちでホテル内の別室で待った。
いよいよ時間が来て、大城が俺を呼びに来た。再びマジックミラーの後ろの秘密のゲストルームに俺は入った。
マジックミラーの向こうの部屋の中は妻一人だった。妻は花柄のワンピース姿の普段着を着ていた。しばらくして会長と医師らしい二人が入ってきた。
会長は精力的な男らしい禿げた頭をした、見た目も80ほどの男だった。
「会長、今日はお世話になります。」
妻が頭を下げた。
「いや、いいんだよ。こちらこそ君にお世話になってるのだから。それより、今回のことはご主人の同意は得ているのかね。」
「はい、大丈夫です。」
俺はマジックミラーの2重ガラスの向こうから、イヤホンを耳にして、マイクの拾った音を聞き洩らさぬように聞いていた。
「今からアベックタイムだ、先生はしばらく外で待っててください。用意ができたら携帯で呼びますから。」
「じゃ、会長、後ほど。」
先生と呼ばれた男は部屋から出て行ってしまった。
会長は妻に近づくと腰を手で引き寄せた。
「ヨシエ、寂しかったよ。」
「あなた、わたしもよ。」
二人は愛し合う者同士んのように深いキスをし始めた。ヨシエ? 初めて聞く名前で俺の妻が呼ばれたことに、俺は驚きを隠せなかった。
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