俺は妻がどういう形で精子提供の話を切り出してくるか、興味深く待っていた。
会長と呼ばれる爺さんは相当な金持ちらしかった。上級市民でもかなり上の方だろう。
妻は会長から精子提供を受けるのはほぼ間違いない。では、いつ、どうやって? それを俺にどう話すのか?
俺は静かに妻が話を切り出すのを待っていた。
それはある日の夕食後だった。
「あなた、精子提供者が見つかったの。」
とうとう切り出したか、と俺は思った。
「紹介してくれたのクリニックの先生よ。その人の精子でうまく子供が授かれて、その子が成人したら素性を知らせていい、
て、了解してもらったの。わたしは知らないけど、クリニックの先生は知っていて、とても地位のある偉い立場の人らしいわ。」
「で、いつ受けるの、精子提供。」
「それは排卵日を知らせて、日と場所を決めるの。」
「場所はクリニックじゃないの?」
「その人の都合で違う場所になりそうなの。その場合もクリニックの先生が立ち会うから、心配いらないって。」
俺は許可を妻に与えた。人生は何が起こるかわからない。その時その時で、できるだけ良い選択をするしかない。
良かったかどうかは、かなり後になってしか分からないことも多い。それが、今までの人生で俺が学んだ教訓だった。
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