妻の医学への期待にもかかわらず、どの病院でも俺のからだから精子を得ることは出来ないといわれた。
研究は進んでいるが、基礎実験の段階だという話だ。子供を望む場合、精子バンクや養子縁組の選択について説明された。
俺の頭にすぐに浮かんだ考えは、精子を得たいなら秘密クラブで妻が避妊しなければいい、という安易な考えだった。
だが色々調べてゆくと、将来成長した子供が、自分の生物学的父親を知りたがる場合があるということだった。
秘密クラブでの個人の素性は絶対秘密だから、精子バンク同様、子供が父親を知りたくても知ることは不可能だ。
しばらく経ったある日、大城から電話がかかってきた。会って一度話したいことがあるとのことだ。
妻が大城に精子提供者について相談したのだった。その時も、俺は妻の秘密クラブでの「仕事」に気づかぬふりをしていたし、
俺がこっそり参加していることも妻に秘密にしていた。だが、大城は妻に相談を受けたことを俺に言わなければならないと
思ったようだ。大城所有のラブホテル内にあるクラブ用の客間で、俺は大城からある提案を受けた。
「奥さんから、個人名を明かしてもいい精子提供者はいないかと相談されましてね、ワシが一番最初に思いついたのが会長ですよ。
この会長は、前も話しましたが、奥さんがお気に入りでしてね、亡くなった奥さんの若いころと瓜二つだそうです。
そこで、事情をワシが話したら二つ返事、自分の精子でよければいつでも奥さんに提供する、将来、その子が自分の個人情報を
知りたければ、どうぞ教えてあげなさい、と言うのですよ。」
俺は素朴な疑問をぶつけてみた。
「その会長は、お歳はいくつなんですか?」
「確か80前です。」
「それで可能なんですか、その、精子提供が。」
「さすがに最近はクルリを飲んでも中折れすることが多いようですが、精子は十分にあると言っていました。」
俺は、少しおかしさを感じていた。
「本当ですか? 病院で調べたとか?」
「会長は自分の精子を凍結保存しているのですよ。」
さすがに俺はびっくりした。大城は話し続けた。
「会長の奥さんはからだが弱かったようですな。だが、愛妻を亡くしたショックからなかなか立ち直れず、再婚できなかった。
後継者をいずれ得たいが、自分もいつ病で倒れるかわからない。そこで精子を凍結保存していたようです。」
大城の話では、その後卵子提供者がみつかり、外国で借り腹となる女性をみつけ、後継者となる子を得たという話だった。
一度凍結した精子は万一の場合に備えて保存し続けているのだった。
精子凍結、卵子提供、借り腹出産・・・どれも俺の思考のスケールを超えていた。
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