続:寿子⑪
「仕事、終わりました」
「1時間後なら茅○崎あたりまで行けそうですが‥」
ラーメンショップでラーメンを待つ間に 小林さんに電話をした。
『お昼は?』との小林さんの問いに「仕事関係の人と済ませた」と、そう嘘をついた。
小林さんと一緒でも良かったのだが 小林さんの予定が分からない。
なので 手っ取り早く済ませて さっさと着替える事にした。
『○○病院、わかりますか?』
「ええ」
『良かった、じゃぁ私 駐車場に居ます』
「1時間後で大丈夫ですか?」
『ハイ』
今のご時世と違って 駐車場にはゲートのない病院や役所なんて そう珍しくも無かった。
そこでの待ち合わせとなった。
病院近くで小林さんに電話をして、病院の裏手で小林さんを拾った。
相○川を渡り 小○厚道路で小○原を目指した。
蒲鉾屋さん 干物屋さん お城、とかを見て回った。
カチッとした小林さんのスーツが 何となく場違いな感もしたし、俺の格好とは この上なくアンバランスだったが 制服好きの俺には 有りがたかった。
時計は15:00を過ぎてしまっていた。
〔チェッ〕と心の中で舌打ちをした。
きっと 今日は もう無理だろう?、が次が有る保証も無い。
イライラばかりが募った。
『ゴメンなさい宇野さん』
『‥そろそろ、私‥』
俺の心中を見透かされたかの様に 小林さんに そう言われた。
結局 ただのデートで終わってしまった。
帰りの車中は 心なしか重たい空気につつまれた。
車を さっきの様に 病院の裏手に回した。
『あの、私の車の所までお願い出来ますか?』
との小林さんの申し出に駐車場に車を進めた
『チョット待ってて下さい』
そう車を降りた小林さんが 自分の車の後ろのドアを開けて、何やら細長い袋を手に戻ってきた。ワインだった。
『ホントは一緒に飲みたかったんですけど‥』
『良かったら コレ‥』
「ありがとうございます」
「でも俺 ワインなんて洒落た物 良くわからなくて‥、良いんですか?頂いちゃって」
『ええ』
『私の分も同じの買ってありますから』
『ゴメンなさい、何処かで一緒に飲む訳には いかないので‥、せめて‥、って』
「部屋は違うけど 同じ時間に 同じワインを‥って事ですか?」
『はい』
「何か 北の国からの 純とレイちゃん みたいですね?それ」
『はい』
『ご存知ですか?、同じビデオをレンタルしてって アレですよね?』
『私も そう思いました、こんな歳して 恥ずかしいですけど』
「でも小林さん?」
「危険ですよ それ」
『分かってます‥』
『分かってますけど‥』
次の言葉を隠す様に 小林さんの方から 唇を重ねてきた。
ホンの一瞬、ホンの一瞬だったが 間違いなく 小林さんの方から唇を重ねてきた。
『‥電話しますね‥』
手を振りながら 小林さんは 車に戻った。
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