続:寿子⑧
夕方、豊川さんと三○を訪ねた。
車は特に問題はない、あと50000k位は余裕だろう、豊川さんはローンの契約をしていた。
帰りぎわ『あの、宇野様』と、小林さんに呼び止められた、豊川さんには車で待って貰った。
『明日 お休みだとか?』
『先程 チラッと‥』
『お時間 ありますか? 明日』
と聞いてきた。
「ええ、午後なら」
「でも小林さん お仕事なんじゃ?」
『明日 お電話しても良いですか?』
「それは構いませんが‥」
『では明日、お電話します』
『今日はありがとうございました』
と、店内へと戻っていった。
『そっか 健ちゃん 林さんじゃないのよね?、そりゃそうよね』
車を走らせながら豊川さんが あらためて そんな事を言っていた。
「そうですね、林は叔父さんの姓なんで」
「でも良いですよ 林でも何でも」
『私ったら ずうずうしく 健ちゃんなんて』
『だってさ 寿子ちゃんち行くとさ 皆んな 林さんじゃない?、だから つい 健ちゃんの事も健ちゃんなんて、ゴメンね』
「そんな、良いですよ 健ちゃんで」
「もう 30はとうに過ぎてますけど」
『ね?、良いわよね?』
『それじゃ、明日 お願いね』
と、エントランスの前で 豊川さんの車をおりた。
家に帰って ご飯と風呂を済ませ ベッドに転がってTVをみていた。
『健ちゃん、いい?』
と、叔母さんの声がする。
「いいよ」と答えると叔母さんが入ってきた。
『あんた 何?、明日 京子さんち行くんだって?、壁紙がどうとかって』
『今 電話が来たわよ、〔お借りします〕って、何で言ってくんないの?』
「壁紙に落書きがあるとか 床にキズが有るとか、そんな事言ってたよ」
「見てくれって」
『だから、何でそれを言ってくんないの?って言ってんの!』
「ゴメン、そんなに怒んないでよ、明日の朝でも良いかなぁ?って それだけだよ」
『嘘!、あんた京子さんまで 食べちゃう気でしょ?、でしょ?』
「そんな事ないって」
『嘘よ!』
『そうに決まってるわ』
「何怒ってんの?」
「だいたい何その〔‥まで〕って、他にも誰か居ると思ってんの?」
『小林さんよ、違う?』
「なにそれ」
「小林さんとは何も無いし、豊川さんとも何も起こりません」
「営業さんと お客さん、叔母さんの友達が家の傷んでるトコ見てくれって、ただそれだけの事でしょ?」
「何でもないのに 何そんなに怒ってんの?」
『‥だって』
「だって 何?」
「スカートは どうしたの?」
「パンツ履かずにスカートにするって アレはどうしたの?」
『あの時は その‥』
『勢いって言うかさ‥』
「勢いでも何でもいいの」
「明日からはスカートにして、いい?」
『分かったわよ‥』
『でも、ご主人の居る人はよしなさい、あとで大変な事になるから、ね?』
「あれ?、叔母さんにも居るよね?、旦那さん、いいの?叔母さんは」
『ンもお、そんな事ばっかり言って』
「はい おやすみ」
叔母さんは 何でも お見通しの様だ。
逆ギレと言えは逆ギレだが、俺は そう その場を誤魔化した。
翌朝、叔母さんは しっかりスカートを履いていた、が 俺は その中を確認する事もなく 遅めの朝食を済ませた。
叔父さんは ソファーに座り 字幕付きでTVを見ていた。
その叔父さんに「行ってきます」と手を振った、時刻と身振りで この程度なら メモを書かずとも解ってくれる様だ。
『行ってらっしゃい』と、叔母さんも玄関まで見送ってくれたが、指1本触れずに家を出た。
10:00少し前 豊川さんの家のチャイムを鳴らした。
※元投稿はこちら >>