続:寿子⑥
『こんにちは、お待たせしちゃって』
「こんにちは、そんな事ないですよ、タバコが切れたんでコンビニまで‥」
「でも、アレですね?、髪型も洋服も いつもと違うんで‥。そうですよね? 会社の制服で来る訳ないですもんね?」
『おかしいですか?』
「いえ、新鮮です」
「とても、似合ってますし」
『ありがとうございます』
「で?、このあとは?」
「何処か目当てのお店が有るとか‥」
『ゴメンなさい、特には無いんです』
『鎌倉の方に歩いて行けば何か有るかなぁ?って、1人じゃ滅多に来ませんし。ただそれだけだったんですけど‥、ご迷惑でした?』
「いえ、そんな事は‥」
「行きますか?」
『ハイ』
小林さんと2人 鎌倉を目指して歩きだした。
「久しぶりだな、こんなとこ歩くの」
『私もです』
『その‥、以前はやっぱりデートか何か?』
「ええ、まあ」
「縁切寺寄ったら 見事に別れちゃいましたけど‥、もう10年以上前の事ですけどね」
『あらッ、いけない事聞いちゃって‥』
『やめておきましょうね、あそこは。ご縁が切れてしまったら悲しいですから』
「‥ですね」
『そう言えば林さんとは‥、名字も違っていたので‥、メル○デスとは』
「ええ、叔母です」
「訳あって 母の妹夫婦と今は一緒に暮らしてます」
『そうなんですね?』
『立ち入った事を‥、失礼しました』
「そんな謝らないで下さい」
「叔母さん、どう周りには話してるんだか?」
『皆さん 色々ありますよね?』
「ええ、私もバツ1ですし」
「別のオジサンには 何だお前 芸能人の仲間入りしたのか? なんて聞かれました、離婚した時に、そんな世代です、みんな」
『ホントですよね?』
『他所の事なんて ほっといてくれれば良いのに‥、みんな噂話は大好きみたいだし‥』
『で?、今 お付き合いされてる方とかは‥』
「‥、残念ながら‥」
「それより良いんですか?、俺とこんな所歩いてて、それこそ噂になりますよ」
『‥ですよねぇ(笑)』
『きっと あっと言う間に広がるんだろうな』
「尾ひれが付いて巨大化してね」
『そうそう(笑)』
『どなたか いらっしゃらないんですか?、気になる人とか いいなぁって思ってる人とか』
「居ますよ。今 目の前に‥」
「・・・・」
「ね?、上手でしょ?、こんなに上手なのに 未だに‥」
『それ私が言うところですよ、あら お上手ね って、フフフ』
そんな下らない話しをしながら暫く歩いた。
〔営業の一環〕だと思っていたが 小林さんからは 車のくの字も出てこない。
『好みの女性なんて お聞きしても‥?』
「ですから 小林さんですって!」
『もう それは いいですッ!』
『これでも 真面目に聞いてるんですよ』
「どなたか紹介して下さるんですか?」
『ご紹介できるかどうかは‥』
『そんなに顔が広い訳でもありませんし』
『でも 好みだけは 聞いておこうかな?と』
「そうですね、性格が良ければ それだけで」
『ホントですかぁ?』
「嘘です」
『フフフ、正直ですこと』
「まずは お尻を見ますね」
「顔よりも お尻を‥、で 前に回って胸を見て、そこから少しずつ視線を上げてゆきます」
『フフフ、またまた正直に‥』
『で?、お尻の大きな私が好みだと‥、そう言うことですか?』
「ええ。あの事務服にやられました」
「好きなんですよ、小さなベストの下の タイトスカートに包まれた 主張する お尻」
「たまんないですよね?」
『そんなに〔主張〕してましたか 私のお尻』
「ええ、俺には それはもう この上なく‥」
『え?、みんな そんな目で見てるのかしら』
『若い子だって何人も居るのに‥』
「皆んなが 皆んなを見てると思いますよ」
『そうなんですか?』
「ええ、特に小林さんは‥」
『何で?、何で私なんか‥』
「大人の色香 ってヤツですかね?」
「魅力的 でしたよ」
『もう!、やめて下さい』
『それより 何処か入りません?、喉も乾いたし。お食事もまだ なんじゃありません?』
『何処か入りましょ?、ね?』
鶴岡八○宮の近くまで歩いてきていた。
その近くの 小洒落た喫茶店に入った。
小林さんはケーキのセット。
俺は コーヒーとパスタとグラタン、この店はホワイトソースが売りらしい。
『グラタン、美味しいですか?』
『ホワイトソースがオススメとかって』
「ゴメンさない 気が利かなくて」
「先に食べちゃいました」
『気が利かないなんて そんな‥』
『ただ ちょっとだけ味見したいなぁ、って』
「じゃ頼みましょ」
「何にします?」
『いえ、そこまでは‥』
『それを少し分けて貰えれば‥』
「‥ですか?」
「あっ、スミマセン フォークを‥」
『そんな‥、それで良いです』
『今 お使いの物で‥』
「でも‥」
「間接何とかになっちゃいますよ」
『‥全然‥』
『大丈夫です‥』
と、俺のフォークを取り上げてしまった。
『ホントだ、美味しい!』
『もう少し良いですか?』
と、更に食べ進めている。
『大変!、ご飯食べられなくなっちゃう』
と、グラタンを返してきた。
「そうですよね?」
「帰って ご飯の支度とか有るんですよね?」
『ええ、これでも兼業主婦なので‥』
『でも 気を使わないで下さいね』
『娘も部活だし、あの人も何時に帰って来るやら‥、でも作るだけは作って置かないと‥』
「‥ですよね?、大丈夫ですか?時間」
『ええ、何とか‥』
「えっ?、なら出ましょ!」
俺は 慌てて掻き込んで 店を出た。
「どうしましょ?、駅の近くに車停めてあるんですが 電車の方が早いですか?」
「もし何なら ご迷惑じゃない所まで お送りしますが‥?」
との申し出に 小林さんは 少し考えていた。
『お言葉に甘えても良いですか?』
『出来れば北茅○崎まで‥』
「駅で良いんですか?」
『はい』
「ちょっとタバコ臭いかもですけど‥」
『フフ、大丈夫です、お願いします』
小林さんと2人 車で北茅○崎を目指した。
『あの‥、お幾らだったんでしょ?、お支払いさせて下さい』
『私の方から お誘いしたんですし、先程は男性に恥をかかせるのも‥と』
『お幾らですか?』
「あの‥小林さん?」
「これが営業なら お支払い下さい、ただ そうで無いのなら 遠慮しないで下さい」
『・・・・・』
『正直言うと半々です』
『その‥、営業と私個人の想いと‥』
『払わせて下さい、せめて私の分だけでも』
「そうですか?」
「じゃぁ、こうしましょう」
「もう少し営業頑張って貰って この次‥、この次 また半々だったら その時は遠慮なくご馳走になります、答えは その時まで取っておくってのは?」
『でも‥』
「でも、何ですか?」
『でも私 もう営業しなくなるかもしれませんよ?』
「その時は その時です‥」
「あとは お客と事務員さん‥、それで良いじゃないですか?、ね?」
『その‥、そう言う意味じゃなくて‥』
『その‥』
『営業 抜きで‥』
ハンドルを握る手に 力がこもった。
心の中では また 派手なガッツポーズを決めた。
※元投稿はこちら >>