続:寿子⑤
翌日、昼飯終わりで 小林さんに電話をした。
が、呼び出し音が鳴るばかり。
俺は諦めて電話をきった。
仕事に戻り フローリングの補修をしていると 着信音がけたたましく鳴りひびいた。
「もしもし‥」
『先程は失礼致しました、お電話でられずに』
「いえいえ」
『明日のご予約でよろしいかったでしょうか』
きっと周りを気にしての事だろう、いやに事務的な話し方だった。
「ええ」
「明日は帰りが戻りが14:00過ぎてしまうと思います、折角ランチに誘って頂いたんですが 15:00位にお茶とか‥くらいなら」
『はい、ありがとうございます』
『では その様に申し伝えます、ご連絡ありがとうございました、失礼致します』
電話が切れてしまった。
それから1時間くらい経っただろうか、また着信が鳴り響いた。
『先程は失礼しました、デスクから掛けてしまいまして』
「いえいえ、そんな事だろうと思ってました、で?今は大丈夫なんですか?」
『はい、休憩時間なので‥』
『で、早速なのですが、明日 よろしいのでしょうか?、ご無理なさらなくても‥』
「いえ、大丈夫ですよ、午前中には終わるので、小林さんの方こそ ご予定がお有りなら、その‥、そちらを優先して頂いても‥」
『15:00でなくても構いません、時間がお分かりになりましたらご連絡頂けると‥』
「はい、分かりました 連絡します」
『ありがとうございます、では明日』
『失礼致します』
結局 その日は残業をして明日に備えた。
珍しく残業する俺を 不思議そうに見てる監督には「明日の午後 他の現場に呼ばれていて‥」と有りもしない言い訳をして。
『あら、今日は随分遅かったのね?』
『ご飯は?』
家に帰ると 叔母さんが そう出迎えてくれた
「まだ、(ご飯)ある?」
『無いわよぉ』
『てっきり小林さんと何か食べてるんだとおもってたわ、違ったの?』
「違うよ、残業だよ」
『あら そう』
『お風呂入ってきたら?、その間に何か作っとくわ、(ご飯)要らない時は電話してよね』
叔母さんは少々機嫌が悪い。
『明日は?、明日も遅いの?』
テーブルにご飯を並べながら 叔母さんが聞いている。
「うん、明日も多分残業」
「明後日 自主検査だって言うから」
俺は タオルで髪を拭きながら答えた。
「叔父さんは?」
姿の見えない叔父さんを尋ねた。
『ん?、横になってる』
『何だか疲れたって』
「まだ9時前だよ、大丈夫?叔父さん」
『昼に薬飲み忘れたんでしょ?』
『良くある事よ』
『・・・・』
『横浜の現場は もうすぐ終わるの?』
「今月中には たぶん、何で?」
『そしたら少し落ち着く?』
「落ち着くって?」
『少しは休めるの?仕事』
「来週の後半は何日か休めるよ、施主検査の指摘が終われば、何で?」
『2日位 時間取れる?、それとも小林さんで忙しい?、誘われてんでしょ?』
「だから 誘われてないって!」
『ホントかなぁ?』
「ホントだって、で?、2日間って何で?」
『ん?、叔父さんをさ 施設にお願いしようかと思って‥』
「お願いって?」
『朝 迎えに来てもらって そのまま その日は泊めてもらうの、で次の日の夕方 送ってきて貰うの、送り迎えは私達がやっても良いらしいんだけど、8:00と18:00だったかな?』
「そんなのが有るんだ?」
『そ。みんなね 抱えてるのよ 色々な事、たまには〔お休み〕欲しいって‥』
「でも それって結構(料金)かかるんじゃないの?」
『そうね。でも そこは 健ちゃんは心配しなくて良いわ。ね?、ダメ?』
「ダメな事は無いけど、どうするの?、何処っか行きたいの?」
『ん?、温泉、近くて良いの、行こ?、ね?』
「なら 再来週の(月)(火)にしようよ」
「それなら 間違いなく休めるし、週末よりは安いし ゆっくりも出来るでしょ?」
『ありがとう』
『予約しといて良いの?、宿とか』
「うん、任せる、お願い」
『ありがとう』
『(食器)桶にだけ入れといて 明日洗うから、叔母さんも今夜は寝むわ、お願いね』
叔父さんの体調、叔母さんの心労、小林さんとの明日、翌朝洗うと言っていた食器を洗いながら 頭の中では色々な事がグルグルと回った。
翌日、指摘箇所を全て終え、監督に確認して貰うと 道具を片付けて 車に乗りこんだ。
そして すぐに小林さんに電話をした。
「仕事終わりました、14:00には三○に着けます」と。
『三○で待ち合わせするわけには‥』と、小林さんは笑っていた。
『でも、市内でも‥』と、小林さんが提案したのは北○倉の駅だった。
この有名な観光地なら 例え誰かに見られたとしても どうにでも言い訳出来る。
きっとそう思っての事だろう。
横浜から鎌倉に向かった。
途中、スーパー銭湯に寄って入浴し、念入りに歯磨きをし 着替えを済ませて。
向かう車中、念入りに歯磨きしたハズなのに タバコの本数は やけに増えた。
鎌倉駅の近くのコインパーキングに車を停め、北○倉を目指して電車に乗った。
駅の脇にある喫煙所でタバコを吸って小林さんを待った。
灰皿は 俺のタバコで溢れた、現場を出る時に開けたタバコが もう空だった。
駅近くのコンビニでタバコを買って戻った。
駅前には 辺りを見渡す小林さんの姿があった。
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