続:寿子②
林さんの申し出からすぐに 俺は少しづつ 叔母さんの家を片付けはじめた。
俺の部屋にとクローゼット代わりにしていた 玄関を入ってすぐの部屋を開ける為に。
そして、客間にしていた リビングの隣の部屋に 林さんのベッドを移して 俺と叔母さんは 新たに ベッドを購入した。
もともと3LDKの部屋。
客間を無くしてそれぞれの部屋を独立させた。
以前から林さんを気遣い ダブルベッドでは寝ずに ベッドの脇に布団を敷いたりしていたらしい叔母さん。
俺のと同じベッドを購入して、リビングに置いてあった趣味の私物やドレッサー等を部屋へと入れると 部屋は瞬く間に物で溢れた。
『捨てないとダメね やっぱり、ここもそうだけどリビングも、アレじゃ誰も泊まれないわ』
叔母さんは そう 頭を捻っていた。
「叔母さん、物置は?」
「有るんじゃないの?、何年も入れっぱなしとか、向こう先に片付けたら?」
俺にそう言われて keyを片手に 俺の手を引いて 物置を目指した。
流石にバブルの遺産の様なマンション、2機あるエレベーター そのエレベーターホールには それぞれ一畳程の各戸の物置が有った。
着替えや何かを運んでは 叔母さんの家を片付け、リサイクルショップに引き取って貰える物は お金にかえ、知り合いのガラ屋さんにゴミを引き取って貰って‥、アパートを引払い ようやく叔母さんの家での同居がスタートした。
この2ヶ月あまり 何度も叔母さんの家に泊まった。
片付けの疲れも有ったろうし それ以上に当然〔林さんの目〕も気にした、叔母さんからも俺からも〔求める〕事は無かった。
『車 どうしようか?』
ある日の夕食時 誰からともなく そんな話しになった時だった。
「メルセデスを頂いて良いのなら それと今乗ってる車を下取りに出して 2台とも買い替えようかと思ってる」、そんなふうに答えた。
体力的にも 明らかに衰えの見える林さん、そんな林さんの事も考え 少しでも乗り降りの楽なモノに‥、そう思っていた。
『あのさ健ちゃん?』
『健ちゃんは会った事ないけど 職場の人でさ 豊川さんて居るんだけど 車がね エンストって言うの? 時々止まるんだって 、車屋さん行くんなら一緒に見て貰ってあげてよ』
車の話しをしていると 叔母さんから そんなお願いをされた。
聞けば豊川さん、近所の戸建てに住む 叔母さんよりも年上の ご婦人。
ご主人は単身赴任中、子供はそれぞれ独立、ご主人も盆暮れにしか帰らず ほぼ一人暮らし、暇をもて余し 小遣い稼ぎの為にとパートをはじめ 叔母さんと一緒になったそうだ。
数日後、カラカラと音のするミ○カで その豊川さんが訪ねてきた。
ドアミラーは言うに及ばず 所々にエクボは出来てるし あっちにもこっちにも ペタペタとタッチペンを塗った跡がある、素人目に見ても 買い替えては? と思う程 ハッキリ言ってボロボロに見えた。
豊川さんには 叔母さんちで お茶をしてて貰う事にして、俺は その車で三菱を目指した。
仕事用の車の本命にはジムニーを考えていた。
八王子や山梨、時には群馬と 雪の降る地方にも仕事で赴く、経済性と機動性を考え そう思っていた。
が、三菱にもPjミニなる車がある、此方も気になっていた。
三菱の駐車場に入ると すぐに若い営業マンションが駆け寄り 大きな身振りで 駐車をアシストしてくれた。
エンジンを切らず カタカタとなる音を確認して貰い、外観よりも まずは この音、そして時々エンストする事、その辺りを直したら‥‥?、そんな事を話している時、一台のクラウンが駐車場に入ってきた。
そのクラウンの誘導に 店舗から出てきたのは 俺よりも年上に見える女性店員。
若い男性店員は その女性店員を呼び「こちらのお客様 お願いします」と 自分はクラウンの方に向かった。
〔貧乏人は相手にしねぇよ〕、そんな思惑が ありありと見えた。
暫くして 工場長と共に 修理見積もりを手に 戻ってきた女性店員、ネームプレートには 小林裕子。
「こちらが見積もりになります」
「小林とよく ご検討下さい」
と、工場長まで戻っていってしまった。
『いらっしゃいませ』
『ご挨拶が遅れてしまって申し訳ありません』
と、見積もり書と共に 小林裕子の名刺を差し出した小林さん。
「あ、スミマセン、お願いします」
「これ(名前)は、ゆうこさん‥、??」
『いえ、ひろこ です』
『て言うか そこからですか?、お車の事じゃなくて(笑)、面白いかたですね?』
と笑っている。
「いえ、実は アレ私の車ではなくて‥」
「アレ 直して乗るんなら 中古を探した方が安いかなぁ?って‥、素人目にも何となく‥」
「で、今回は それの理由と言うか 根拠と言うか、そんなのが欲しくて伺っ次第で‥」
『‥ですよね?』
『あっ、失敬致しました』
『私も買い替え と言うか、修理はお薦め出来ませんと申し上げるつもりで その‥』
と、はにかんでいた。
家に戻り 豊川さんには 修理見積もりを手渡し、先刻の話をそのまま伝えた。
が、あの若造、アイツの鼻っ柱をへし折ってやりたい、なんなら工場長も‥、そんな事の方が気にかかっていた。
俺は 叔父さんのメルセデスで また三菱に向かった、途中 小林さんに電話を入れて。
駐車場に入ると 誘導に出てきたのは あの若造、「先程は失礼しました」としきりに頭を下げている。
席に案内され 飲み物はどれにするか?と、さっきとは えらい変わり様だった。
が、俺はあえて 話しを進めた。
このメルセデスと もう一台のミニバン、それを下取りに出して 買い替えを検討している、車種はPjミニとシャリオ、その辺の話しを聞きに来た、そう若造に伝えた。
「お待ち下さい」と、奥に消えた若造が、カタログを手に工場長と戻ってきた。
工場長は「お話し 伺いました」
「そう言う事でしたら 先程の修理の件 こちらも最大限勉強させて頂きます」と、しきりに頭を下げ始めた。
車が変わると こうも態度が変わるモノかと 呆れていた。
若造に伝えた、『さっきの小林さん、それと店長が居るなら一緒に呼んで欲しい」と。
間もなく現れた3人、事のいきさつを最初から話した。
「工場長は立場上 忙しかったのかもしれない、が、木で鼻をくくった様な態度は頂けない。若造は若造で 車で人を判断している と言うか比べている、そんな奴から買うつもりは無い、教育はシッカリとお願いしたい。今後の話しは小林さんと進める」と、そう店長に ハッキリと伝えた。
そして、明日の朝①でウチまで来て 今日乗って来れなかったミニバンの査定をして貰う、そこまでの約束を取り付けて その日は帰った。
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