水曜になってしまった。
まだ心の中で迷っていたが、バイトに行く時よりも遅い時間になって、ようやく家を出た。
「学校で集まる。たぶん、遅くなると思う。」
そんなウソを、昨日の夜に親に言った。
そんな校則があるかわからないが、少し悩んで服は学校の制服にした。
学校の指定の鞄を自転車のカゴに乗せ、学校とは反対に向かって漕いでいった。
関係者用の通用口を、アルバイトを始めた時に渡されたカードキーで解除した。
いつも聞いているはずの電子音が、やけに大きく聞こえてドキドキした。
鉄の扉を開け、バックヤードの通路を歩く。
窓のない蛍光灯の光だけの通路が、ドキドキする心臓を煽っていた。
大丈夫、この時間はみんな売り場に出てる・・・
今日は売店以外は、社員が数人しか出ていないから見つからない・・・
見つかっても、忘れ物を取りに来たと言えばいい・・・
そんな風に、何度も繰り返したシュミレーションを頭の中で反芻しながらコンクリートの通路を歩いた。
コンクリートの通路は静かで、自分の足音が響いていた。
「やっぱり来たわね」
それが、私に向けられた最初の一言だった。
車の横に立ち、まるで分かっていたかのように私を待ち構えていた。
正面から ちゃんと見たのは初めてだった。
美しい黒髪・・・それに、清楚な感じのする整った顔をしていた。
優しそうな顔・・・鼻筋の通った美しい顔だった。
赤い口紅が、私より大人の女だと感じさせた。
その顔が嬉しそうに、楽しそうに・・・・まるで勝ち誇ったように、妖しい笑顔を浮かべながら私を見ていた。
「ほら、乗って・・・」
そう言いながら後部座席のドアを開けた。
どうして良いか分からず、固まってしまった。
恐怖や不安を感じていた。
そんな戸惑って動けない私を、女の人は優しいそうな笑顔で、甘い声で導いていった。
「そのカッコじゃ目立つし・・・ここで働いてるなら同僚に見られても・・・ね?」
そう言って私を車の中に誘導し、女性は助手席に乗り込んだ。
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