夫から和服を着る時には下着を着ける事を許されなかった私は、喪服も言いつけを守ります。
使用人が気を遣って夏物を用意してくれたので少し薄めです。
下着に線が出ない為にも下着を着けないのです。
気を引き締める為に少し胸元、帯はキツく締めます。
そして、髪を上げて姿見で確認して部屋を出ました。
夫の亡骸は既に祭壇に祀られており、徐々に弔問客も集まりだしていました。
私も数珠とハンカチを持ち弔問客を迎えます。
弔問客の中に草刈さんを見付けます。
使用人から昨夜は宿泊させた事は聞いていましたが、やはり冷静に対峙する事はできそうに有りません。
歳が近い事もあるでしょうが、お互い意識している事は間違いありませんでした。
ただ、その意識は私は憎悪・・・、彼は同情なのでしょう・・・。
私の動向をマスコミは面白おかしく報道するでしょう・・・。
三十路前の使い切れない遺産を受け継ぐ私を世間の男達が放って置く筈がない、きっと私がボロを出す・・・。
そう思っているのでしょう。
私と主人とは本当に愛し合っていました、この家だって地下の部屋だって私と夫の思い出なのです。
私が守らなければ・・・そんな使命感のような物を感じていました。
葬儀が始まり、私は喪主として最前列に一人で座っています。
夫には身寄りがなく、親戚筋と言っても何人もいる訳では有りません、夫から聞いているのは叔父と叔母の
存在程度でした。
葬儀の司会進行は、使用人に任せています。
親族の席は私を含めて三人程、後の参列者は300人程だったそうです。
読経の流れる中、葬儀は進行して行きます・・・、私の留め焼香で読経は終わって、棺が祭壇から引き出されます。
そして、棺の蓋が開かれ沢山の参列者から花を入れられています。
もう・・・あの蓋を閉められたら夫は灰になるだけです、私の目には涙が溢れます。
そして・・・あろう事か一瞬、オーガズムに似た感情を感じてしまったのです。
気が遠くなりました、その後はどうなったかよく判りませんが、気が付くと私は自室のベットに寝かされていました。
近くに居た使用人と草刈さんに抱き抱えられて連れて行かれた様でした。
それから、葬儀は私を置いて行われ、斎場へは私は行けずに終わってしまったのです。
せめて、お骨拾いだけでもと、使用人に懇願しましが、また倒れる可能性があるのでダメだと草刈さんから止められていると
聞きました、草刈さんはインターンの医師で精神内科が専門だと言う事でした。
今迄憎しみを抱いていた人に助けられた・・・。
夫への申し訳ない気持ちが、私の胸を締め付ける・・・。
※元投稿はこちら >>