小坂「ダメッ……」
小坂さんの発した声は、普段の彼女の声質とは違う、淫靡な雰囲気を醸し出す甘美なささやき声だった。
それでも、私の体は緊張と不安で強ばってしまい、なかなか言葉を発することは出来なかった。
私は何とか小坂さんに掴まれている右手をワンピースから出して、言葉を振り絞る
山口「あ…………ご………」
ごめん、と言おうとしたところで、小坂さんの右手が私の口を防ぐ。
そして、先程と変わらない、耳をすまさなれけば聞き逃してしまう程の、小さくささやくような声で私に話しかける。
小坂「皆にバレちゃうから。ここじゃダメ。ね?」
私は黙ったまま、ゆっくりと頷いた。
小坂「あっちに行こう。」
小坂さんは、そう言いながらソファーから立ち上がると、ワンピースの裾を直して、机の上を手探りで何かを探し始める。
私は、小坂さんが何を探しているのかが分かり、すぐにもう一棟のコテージの鍵を取る。
私が鍵を取ったのが分かると、小坂さんは、足音を極力たてないようにしてコテージの玄関に向かった。
私も、同様にして小坂さんの後をついていく。
二人でそっと靴を履いて外に出ると、隣にあるもう一棟のコテージへ向かった。
直接にしたら5メートルも離れていないが、区画毎に柵があるので回り込む必要があるので10メートルくらいは歩くだろうか。
私は、小坂さんの後ろを無言でついて歩く。
小坂さんも無言だった。
10メートルの距離がやたら長く感じる。
半分、期待している部分はあるが、それでも、まだ小坂さんの反応は分からない。
もしかしたら、向こうに着いた瞬間、通報されるのかもしれない。
そう考えながら、もう一棟のコテージ前に着くと、小坂さんは私の方に振り返った。
小坂「鍵、ある?」
小坂さんは私に手を差し出した。
小坂さんの声は、いつも聞いている普通のトーンに戻っていた。
山口「あ、うん。」
私は小坂さんに鍵を渡した。
小坂さんは、私から鍵を受け取ると、玄関の鍵を開けて誰もいないコテージの中に入る。
私はそれを見送る。
玄関扉が閉まりそうになると、すぐに小坂さんがまた扉を開く。
小坂「何してるの?蚊に刺されるよ?(笑)」
山口「あ、あぁ。……うん。」
私は、小坂さんの後に続いて小坂さん以外は誰もいないコテージに入った。
リビングの電気をつけると、小坂さんはリビングのソファーに座った。
ソファーのデザイン等に多少の違いはあるが、基本的な構造はどこも一緒のようだ。
小坂「はぁ。ビックリしたなぁ(笑)もう!」
山口「ごめんなさい。もう捕まる覚悟は出来てます……。」
私は立ったまま、小坂さんに謝罪する。
小坂「え?あぁ(笑)そうだよねぇ。これが、よしとかならそうするかも(笑)」
山口「………。」
小坂「でも、大丈夫。心配しないで(笑)そうじゃなかったら、もっと早い段階で止めてたから!(笑)」
山口「……え?」
小坂「実は、結構早くに気付いてたんだなぁ(笑)」
山口「そ、そうなの?」
小坂「うん(笑)」
山口「どの辺で?」
小坂「ソファーから右足降ろされた辺り?」
山口「そうだったんだ……。でも、そしたら何で?」
小坂「ん?理由は色々あるけど……。」
山口「……美起のこととか?」
小坂「うん。それは否定出来ないかな。」
山口「そう……だよね。俺って汚い男だね。そういう同情につけこんで……。」
小坂「ん?いやいや、それは仕方ないよ。でも、きっと、中尾はまた戻ってくるよ。山口君のところに。」
山口「そうなのかなぁ。」
小坂「私は、二人とも友達だから分かるよ。中尾はきっと戻ってくる。だから、その時は、中尾を許してあげてよ?」
山口「いや、怒ってないよ。俺が情けないだけだったんだから。」
小坂「そうやって、悲観的にならないの。誰も悪くないんだから。」
山口「前も言ってたね。」
小坂「うん。でも、山口君の気がそれで紛れるなら、私は、いいよ。山口君としても。」
山口「え?」
小坂「でも、皆には内緒だよ!?絶対。」
山口「いや、それは勿論だよ。」
小坂「あ……あとさ。もう1つ、私のワガママじゃないけど……。」
山口「うん。」
小坂「せめて、私としてる時は、中尾のこととか考えないでよね?(笑)それは、女として悲しいから(笑)」
山口「当たり前だよ!さっきだって、中尾のこと考えたりしてないよ!」
小坂「そう?中尾と間違えたんじゃないよね?(笑)」
山口「そんな間違え絶対しないでしょ(笑)」
小坂「そっか(笑)じゃあ、ちょっと歯磨きだけはさせて(笑)お酒臭いし。」
山口「あ、うん。大分飲んだからね(笑)」
小坂さんは、そう言うと、洗面所へと向かった。
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