8月に入り、私はパソコンの画面を食い入るように見つめていた。
私の横に立ちながら小坂さんも真剣な眼差しで画面を見ている。
今日は7月の各店舗の売上の最終集計日だった。
小坂「中間集計日は98店舗中の68位だったよね。」
山口「うん。でも、あれは人件費やら商品原価やら諸々の経費が正確には反映されてないから、あまり期待出来ないけど。やっぱり、せめて70台にはいたいよね。」
うちの店舗は90位台がほぼ定位置、たまに売上が良い時でも80台後半に入るくらいで、本部直営店としてはお荷物扱い店舗だった。
小坂「あ、出たね。」
ブロックの掲示板に7月中の売上成績のファイルが貼り出された。
私は、緊張しながらマウスのカーソルをファイルに合わせる。
山口「ひ、開く?」
小坂「なに言ってるの(笑)当たり前でしょ。緊張しすぎだよ。」
仕事でこんなにも緊張するのは、いつ振りだろう。
入社したての頃は、一つの仕事に一喜一憂していた頃が懐かしい。
それが、いつの頃からか、仕事に感動がなくなり、成果が上がらなくなっても平気になっている自分がいた。
入社同期が成績を上げて、昇進していっても、自分は自分だ、全力で頑張っていればいつか成果があがる、とカッコ悪い言い訳をして、成果のあがらない原因を考えなくなっていた。
だが、今の私は、本気で結果を求めている。
この数ヶ月、一緒に頑張ってくれている小坂さんのためにも結果を出したい、そのために、この地域のお客様のニーズに応えるために、精一杯検討に検討を重ねてきた。
私はマウスをクリックし、結果を表示する。
エクセルデータが一位から順に表示された。
とりあえず、一位なんて見たところで仕方ないので、データを一番下にスライドさせる。
90台には見当たらない。
『良かった、最低限はクリアした。』
80台も見当たらない。
『よし!しっかり成績は残している!』
70台にも、ない。
山口「あれ?」
60台にも見当たらない。
『見逃してしまったか?』
一度、下に戻ってもう一度見直したが、それでも見つけられなかった。
データを上にスライドさせていく。
小坂「あ!あったよ!」
小坂さんが、自分の店舗名を私より先に見つけて指をさした。
27位 T桜ヶ丘町店
私は画面を見て茫然とした。
『え?何かの間違いじゃないのか?』
中間順位は、単純な売上金額のみを掲載しているので最終利益で20位くらいの順位が上下するのはざらにある。
しかし、中間から最終で40もジャンプアップしたのは、私の中では経験したことがなかった。
小坂「ホント凄いねぇ。良かった。」
言葉が出ない私の横で、小坂さんは嬉しそうに画面を見ながら声をあげる。
こんな気持ちは、いつ以来だろう。
気付くと、私のマウスを握る手が震えている。
山口「………良かった。」
私は熱い気持ちが込み上げてきて、左手で目頭を抑える。
小坂「山口君、いつも遅くまで頑張ってたじゃない。きっと、お客様にその熱意が伝わったんだよ。」
小坂さんが、私の肩に手を乗せながら、そう声をかけてきた。
私は、その言葉に更に熱いものが込み上げ、声を押し殺しながら、完全に泣いてしまっていた。
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