小坂「ハァ………ハァ………ハァ………ハァ………」
小坂さんは、左の胸にあてがっていた手を私の手の方へと伸ばしてきた。
そして、私の手の動きを止めようと、手首の辺りを弱々しい力で掴んできた。
『これ以上は止めてほしいのか』
私は彼女の行動をそう解釈した。
小坂さんの履くショーツから手を抜き取り、私は彼女の耳元で「ごめんね。」と呟いた。
小坂「……………ハァ…………ハァ……………ハァ…………」
小さな吐息をしながら、呼吸を整えている彼女は何の反応もしなかった。
彼女は寝ている時よりも幾分か疲れた表情をしていたが、相変わらず目はつむったままだった。
私は、彼女のブラジャーを元に戻した後、最初と同じようにワンピースのフロントボタンを止めた後、腰部分の紐を結び直した。
私は、すぐにベッドルームを出て、浴室へと向かう。
シャワーを浴びながら、二回も射精をしてしまった。
浴室を出た後は、最初に着ていたハーフパンツとTシャツを着て、二人掛けソファーに座り、先程の出来事を思い返す。
明日彼女が起きたら、どんな反応をするのだろうか。
もしかしたら、仕事どころではなくなっているかもしれない。
しかし、そうなったとしても、無意識だった彼女に手をのばし、傷付けてしまったのは自分なのだから、それは素直に彼女の意思に任せよう。
そう考えながら、私はふと時計を見ると、既に午前3時をすぎていた。
私自身も急激に疲労感が襲ってきたため、自然とソファーで眠りに落ちていた。
次に気付いた時には午前9時になっていた。
山口「イテテテ。んー。」
腕と背中を激痛が襲っていた。
もしかしたら、昨晩の行為の際に年齢に比べて無理な姿勢を取りすぎた反動かもしれない。
小坂さんは、まだ起きていなかった。
山口「んー………。いくしかない……か。」
私は勇気を出してベッドルームへ向かう。
ドアを開ける直前は昨夜とは別の緊張がただよっていた。
ドアをノックする。
山口「小坂さん?……起きてる?」
返事はない。
私はそっとベッドルームのドアを開き、中へと入る。
小坂さんは、昨夜ベッドに横たわらせた時と同じように寝息をたてており、ベッドの上に猫のように背中を丸めるようにして寝ていた。
ゆっくりと彼女に近付き、顔を覗きこむと、安らかな寝顔をしていた。
山口「………小坂さん?」
まだ彼女は起きない。
私は彼女の肩を揺らしながら、もう一度声をかけた。
山口「小坂さん?大丈夫?」
小坂「う…………ん?」
初めて彼女が反応を示す。
そして、仰向けになりゆっくり目を開く。
暫く天井を見つめる彼女。
山口「大丈夫?」
私が声をかけると、彼女はガバッと上体を起こした。
小坂「え?え?」
小坂さんは、周囲を見渡す。
状況が把握出来ていないようだった。
そして、顔を上げて私と顔を見合せる。
小坂「うっそ!!!!?ヤダ!!!ごめん!!!」
山口「え?」
小坂「私大分飲んじゃってたよね!?」
山口「ま。まぁ、………うん。」
私は、彼女の反応に拍子抜けしてしまった。
小坂「あー……もう、ホントに申し訳ない。これ山口君のベッドなのに、私……あ、イタタ。」
小坂さんは、右手で頭を抱えた。
小坂「ホント、バカで変な飲み方してたよねぇ。途中から記憶ないけど、迷惑かけちゃいました。」
山口「いや……こっちこそ。部屋に連れてきちゃってごめん。家さ……咄嗟に分からなくて。」
小坂「そうだよね…。でも、道路に投げ捨てないでくれて、ありがとね。」
山口「いや、そんなこと出来ないよ。」
小坂「え、と。時間、時間。」
山口「9時過ぎたところ。」
小坂「そんなに……。普段なら5時過ぎには目覚めるのに。」
山口「早いね(笑)」
小坂「そんなもんだよ?」
山口「主婦は大変なんだね。」
小坂「楽ではないかなぁ。」
山口「そうだよね。朝食どうする?」
小坂「いやいや、そこまでしてもらう訳にはいかないから。」
山口「大丈夫だよ。コンビニのサンドイッチくらいしかないけど。」
小坂「んー。ありがとう。でも、頭がガンガンするから本当に大丈夫。ちょっとトイレと洗面所借りていい?」
山口「あ、うん。どうぞ。」
私は小坂さんをトイレに案内する。
山口「はい、そっちが洗面所。生活感あるから、あんま綺麗じゃないかもしれないのは許して下さい(笑)」
小坂「全然綺麗だし、大丈夫です。ありがとう。」
私は小坂さんがトイレに入るとリビングへと戻った。
『本当に記憶ないのかな?』
私は心の底でもやもやする気持ちを隠しながら、冷蔵庫から牛乳を取り出した。
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