それ以来、小坂さんと私の距離は急接近した。
それは、男女の仲という訳ではなく、仕事上の重要なパートナーとして、そして、美起の件などプライベートなことを相談出来る友人としての仲であった。
もちろん、私は女性として意識する部分もあるのは否定は出来ないが、彼女はすでに結婚しているし、子供もいるので男女の仲を期待出来るものではない、と半ば諦めてもいた。
そんな中、2週間後に開かれたブロック会議の日から、僕と小坂さんの関係に変化が起き始めた。
ブロック会議は、県内を5つに分割した各ブロック毎に行われ、本部直営店及び参加を希望するフランチャイズ店のオーナー若しくは店長、それに4つの地区のエリアマネージャーが参加する、四半期に一度開かれる大きな会議だ。
会議では、各エリアの売上進捗状況がエリアマネージャーから発表され、次に指名された店舗の店長から今季の取り組みや、今後の展望について発表がある。
指名された店舗=成績優秀店、というのは暗黙の了解であり、それを聞かされる者達には基本的に発言権はない。
その後、各フランチャイズ店のオーナーから寄せられる意見を代表オーナーが発表し、回答が必要な場合は、ブロック次長が回答し、最後にブロック長が総括をして会議は終了した。
会議終了後に、エリアマネージャーの菊地が私を呼び止めた。
菊地「先輩、次長が先輩を呼んでこい、と言われました。一緒に次長のところ行きましょう。」
山口「分かった。」
菊地と、共に次長席に着くなり、次長からは驚きの言葉をかけられる。
次長「おぅ、山口。お前のところの売上、菊地から聞いたよ。確かに、あの店舗にしては、よく健闘してると俺は思う。」
山口「ありがとうございます。」
次長「俺としては、次の四半期に同じだけの売上維持出来たなら、ブロック長に話して西地区のエリアマネージャーに推薦したいと思ってる。」
山口「え?」
次長「何驚いた顔してんだ?嫌か?」
山口「いや、でも、私よりも売上優秀なやつがまだ沢山いますが……」
次長「仮にも本部で勤務してたやつが、何言ってんだよ。年次的にも、お前が一番上なんだし、俺はお前の経験を生かすポジション与えたいと思って言ってるんだ。それとも、何か?うち辞めてどっか別のとこでも就職するのか?」
山口「いえいえ!そんなつもりはないです。」
次長「なら、頑張ってみろ。お前が本部で失敗したのは、リスクを恐れるあまりに何もしなかったことだ。今のお前ならその失敗から這い上がることも出来るんじゃないか?」
山口「そうなのでしょうか……。」
次長「自信持ってもう一度チャレンジしてみろ。これ以上同期に置いてかれると、お前自身の居場所もなくなっちまうぞ。」
山口「………はい!ありがとうございます!」
次長席を離れ、廊下を歩いていると、菊地に笑顔で声をかけられた。
菊地「先輩、次長はなんと?」
山口「次の四半期も今の売上維持したら、西地区のエリアマネージャーに推薦する、ってさ。」
菊地「ホントですか!私、先輩の店舗推しましたから、甲斐がありました!」
山口「色々気に掛けてもらって、ありがとうな。」
菊地「先輩が入社したての頃の私の面倒よく見てくれたお礼ですよ。」
山口「そんな見たか?俺。」
菊地「見てくれましたよ。犬も3日飼えばなんとやら、って言うじゃないですか。」
山口「そうかぁ。まぁ、でも、次の四半期に結果出さなきゃダメだからな。」
菊地「ですね。何かあったらすぐ言って下さい!」
山口「サンキュ。じゃあ、店戻るわ。」
菊地「お疲れ様でした!」
私は、菊地に別れを告げると、すぐに店舗へと戻った。
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