部屋に戻ると、中尾はトランクケースの中から荷物を出して片付けをしていた。
淡々と作業をする中尾を、私はぼう然としながら、見ている。
すると、中尾は口を開く。
中尾「あ、ベッドで雪と楽しんだ跡。ヒロが片付けてね。流石に私じゃ片付けられないから。」
山口「あ………」
先程、小坂さんに使わせた電マがベッドの上に置きっ放しにしていたことに今更気付く。
私は急いで寝室に入り、電マを回収して、付属の手提げ袋の中に入れると、ベッド下の収納にしまいこんだ。
中尾「後で枕とシーツだけ買ってくるわ。雪がダメとかじゃないけど、流石に他人がセックスしたばっかりの後じゃね(笑)」
中尾は、あっけらかんと笑いながらそう話すと、寝室のウォークインクローゼットに自身の洋服を持っていく。
山口「あ、事故で車が今ない。」
中尾「あ!そっか。」
クローゼット内から中尾の声がする。
やがてクローゼット内から中尾が出てくると再び口を開いた。
中尾「う~ん。どうしよっかなぁ。駅前のレンタカー借りるしかないかな。」
山口「あー、そういえば、そんなことあったな。」
中尾「あ。そういえば、事故で車壊れたけど、保険の手続きした?」
山口「あー。まぁ。治療の手続きはしたけど。修理とかはまだ。」
中尾「何やってんのよ。今は乗れないけど、どちらにせよ、いずれは車なきゃしょうがないじゃん。」
山口「……うん。」
中尾「保険で代車とか手配出来ないかなぁ。証券どこ?」
山口「あ、書類棚の一番上にある。」
中尾「はい。」
そう言うと、中尾はリビングに戻った。
私は暫くベッドに腰掛けながら、先程の小坂さんの言葉を思い返していた。
小坂「中尾……ちょっと違う。」
確かに、今まで中尾とは別れたり、また付き合ったり、を繰り返していた中で、お互いが他人とセックスしていることは暗黙の了解ではあったし、その時に付き合っていた相手と別れる前に私達はセックスをしていたこともある。
だから、私自身は、中尾との距離感の感覚が麻痺しているのかもしれない。
ただ、唯一違う点は、今までの相手はお互いに知らない相手だったが、今回のように友人同士というケースは初めてだった。
中尾「レンタカー手配出来るみたいだから、保険使っちゃっていいよね?」
考え事をしていると、スマホを片手にした中尾が寝室に顔を出す。
山口「あ、うん。」
中尾「あ、じゃあお願いします。レンタカーはT駅前のレンタカーショップが……」
中尾は保険会社の担当と通話しながら、再びリビングへと戻っていった。
流石、法律事務所で働くだけあって、手際がいい。
山口「でも、やっぱりちゃんと話し合いは必要だよな。」
そう呟きながら、私は中尾のいるリビングへと戻った。
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