トイレに入ってから、化粧を軽く直して髪もチェックする。
永川『やっぱり出掛ける時はいつも注意しないとダメだよね。』
歳を重ねるとともに、身なりに油断していた自分自身に呆れてしまっていた。
永川『でも、化粧ポーチ持っといて助かったぁ。』
若い頃に比べて、持っている数は少なかったけれど近所のスーパーに出掛ける時等を除いて出掛ける時は化粧ポーチだけは持つように心掛けていたのが幸いした。
トイレから出てエスカレーターで一階に降りると、セントラルゾーンにあるインフォメーションカウンターに向かう。
永川「あー。緊張するな。」
桔平さんの待つコーヒーショップの看板が見えてくる。
永川『やっぱ、帰りたい……』
そう思いながら、歩く速度が遅くなってしまう。
永川『いた。多分あの人だ。』
茶髪で少しだけ色黒な、いかにもサーファーみたいな格好をした男性がスマホを見ながら佇んでいるのが視界に入る。
永川『やっぱ、若過ぎるるよぉぉ……』
自分とはタイプが合わない若い男性に一瞬歩みを止めてしまった。
永川『やっぱり帰りたい……でも、約束しちゃったしなぁ。』
私は勇気を出して、桔平さんと思われる男性に近付いて横から声をかける。
永川「あのー、きっぺ……」
桔平「あ!永川さんですね。初めまして、桔平です。」
永川「あああの、あの、そうですっ!永川です!」
緊張のあまり声がうわずっている。
桔平「随分緊張してますね(笑)ちょっとだけコーヒーでも飲んでいく時間ありますか?」
永川「ちょ………ちょっとだけなら。」
桔平「良かった。では、入りましょう。」
桔平さんは、目の前にあるコーヒーショップへと入っていったので、私もその後に続いてお店に入る。
桔平「僕はアイスカフェオレにします。永川さんは?」
お財布を小さめのショルダーバッグから出しながら、桔平さんが聞いてきた。
永川「あ………、私は自分で……」
桔平「嫌だな(笑)僕が出しますよ(笑)」
永川「いや……、でも……」
桔平「流石にコーヒーくらいご馳走させて下さい。」
永川「あ、じゃあ……同じので。」
桔平「分かりました。では、僕が先に席に座っていて下さい。」
永川「わ……わかりました。」
私はお店の端っこの方に空いている席を取ると、桔平さんが来るのを待った。
いい年したおばさんが若い男性とコーヒーを飲んでいるのが何だか恥ずかしい気がして、あえて端っこを選んだ。
数分すると、桔平さんがコーヒーを持って席にやってくる。
桔平「はい、どうぞ。」
コースターを先に置いてから既にストローのさしてあるコーヒーを私の目の前に置いて、更に紙ナプキンをコーヒーの横に置いてくれる。
この時点で、桔平さんは凄く気の利いた男性なんだ、と私は直感的に感じた。
桔平「いやー。でも、想像してた人とは違いましたね(笑)」
永川「あああ、ごめんなさい。」
桔平「悪い意味じゃないです(笑)永川さん、聞いていた年よりも全然若く見えますよ。まだ30前半に見えました。」
永川「いやいやいやいや……ただ、化粧でごまかしてるだけで。」
桔平「そうなんですか?カカオのやり取りとか見てても、大人な雰囲気がある人を勝手に想像してしまってました。」
私は背が低くて童顔なので、若くみられることは昔からよくあった。
永川「すいません……こんなんで……」
何だか申し訳なくて、さっきから桔平さんには、謝りっぱなしだった。
桔平「えー、僕は好きなタイプなんですけどね。」
ドキリとして、顔が真っ赤になってしまっているのが自分でも良く分かった。
桔平「僕は見た通り、こんな感じなんで好き嫌い分かれると思いますけど。」
永川「いや、スポーツマンな感じがにじみ出ているかと……。」
桔平「サーフィンで日に焼けてますからね(笑)」
永川「そういえば、お店は?」
桔平「ん?月曜日なんて午前中はほとんどお客さん来ないから、閉めてきました(笑)」
永川「あ、そうなんですね。何のショップを?」
桔平「あ、僕は小さいながらもサーフィンショップを経営してます。最初はスポーツ用品店に勤めてたんですけど、やっぱり自分の好きなことやってみたいな、と思ってですね。まぁ、経営は楽じゃないですけど、何とかやってけています。また帰ったらお店開けないと、です。」
永川「そう……なんですね。」
そこから30分くらい、桔平さんと雑談をして時計を確認すると、帰宅しなくてはいけない時間になっていた。
※元投稿はこちら >>