夜になるとより元気になる子供達を寝室に追いやり、ようやく主婦業が一段落ついたところで、私は山口君の家から帰る途中で買ったアイスクリームを冷凍庫から出して食べ始めた。
永川「んー!ひっさびさに食べるとおいしいなぁ。」
アイスクリーム専門店で買った口の中で小さなキャンディが弾けるタイプのアイスクリームだ。
永川「だって自分の身体で稼いだお金だから、これくらいなら許されるよね。」
自分自身に言い訳するかのように独り言を呟いて、二口目を口に運ぼうとしたところで、玄関のドアが開く音がする。
永川「あー。帰ってきちゃったよ。」
どうやら、夫が帰ってきたようだ。
永川「おかえり。」
リビングに入ってきた夫はただいまの挨拶すらせずに、スラックスをソファに脱ぎ捨てると、そのまま浴室に向かった。
私はスラックスをシワにならないようにしてハンガーにかけると、玄関のクローゼットにかける。
もう10年以上、夫のスーツをハンガーにかけるのが私の仕事になっていた。
味噌汁の鍋を温めながら、おかずを小皿に移して机に並べていく。
味噌汁とご飯をよそい終わると夫が浴室から出てきたところだった。
夫はズボンだけを履いて上半身は裸のまま、タオルを首からかけたままの状態で自分の席に座ると、無言で夕飯を食べ始めた。
永川『やっぱ、言うだけ無駄よね。』
私は無言で夫の対面の席に座り半分溶けたアイスクリームを食べる。
永川夫「珍しいアイスクリーム食べてるな。」
永川「あ、うん。たまには、ね。あなたの分もあるよ。」
永川夫「いらん。」
永川「あ、そ。」
永川夫「いいよな。主婦はそうやって人のお金で自分の食いたいもん食べられるんだからな。」
私は夫のモラルの欠けた言葉に無言を貫き、アイスを食べ続ける。
以前から、仕事で疲れていたり不機嫌なことがあったりすると、こうした発言はあったが、もうそれにも慣れっこになっている自分がいた。
やがて、夫は夕飯を食べ終えると床にあるパジャマの上着を着て、いつも通り、ソファの定位置に座る。
私は夫の食べ終わった食器をキッチンに運び、夕飯の後片付けを始めた。
夫に目をやると、無気力な様子でスマホの画面を眺めて、何かのゲームをやっているようだった。
永川「別にあなたのお金じゃないし……」
私は食器を洗いながら、夫に聞こえない声でそう呟いた。
永川『そもそも人のお金ってなに?私だって家事や育児、一生懸命やってるわよ。』
洗った食器を食洗機にしまい、洗剤を入れて食洗機の予約ボタンを押すと、私は翌日の朝食の準備のために、お米を砥ぎ始めた。
永川夫「あー。そういえば、明日から1週間出張なの覚えてる?」
永川「えー!?聞いてないよ?」
永川夫「先週話しただろ?」
永川「いや、聞いてないってば。」
永川夫「言ったはずだけど。まさか準備してないのか?」
永川「してないわよ?聞いてないもん。自分で準備したら?」
永川夫「いやいや、絶対言ってるから。」
永川「知らない!」
永川夫「知らないじゃなくてさ……。あー!もういいよ!とりあえず、3日分の着替えだけ用意しといてくれよ。あとは向こうで何とかするから。明日早いし、俺はもう休むから。」
夫は、私が朝食の下準備をしているのをいいことに、逃げるようにしてそう言い捨てると二階の寝室へと上がっていった。
永川「ふざけんな!このクソ旦那!」
怒りのあまり、つい子供の前では絶対に使わないような口調になってしまう。
私はお米をジャーにセットすると玄関横のクローゼットから夫のワイシャツを取り出した。
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