俺は自宅に帰り、誰もいない自宅で今後について考えていた。
中尾との関係の始まりは、そもそも何が理由だったのか。
親友のぐっちゃんと、中尾の関係に亀裂が入る出来事があり、そこに、妻との別居状態が始まった俺が中尾と飲んで……。
俺は色々と考えた末に、久しぶりに妻のひさえと連絡を取ることにした。
電話のコール音がしたが、留守番電話に繋がれた。
吉本「やっぱり、出ないよな……」
俺はキッチンで加熱式タバコをカートリッジにセットした。
加熱式タバコが熱で蒸される匂いが鼻についた瞬間、スマホの着信音がなる。
妻の久枝からだった。
吉本「あー、もしもし?」
久枝「電話した?」
吉本「あ、うん。」
久枝「なに?」
吉本「いや、光一は元気かな、って。」
久枝「元気よ。」
妻の久枝とは、大学3年の時に、バイト先のリサイクルショップで既に久枝が働いていた縁で知り合い、今年で中学三年生になる息子の光一がいた。
久枝と知り合った当時、シングルマザーとして懸命に働いて小学生になる娘を養う久枝に惹かれ、大学卒業を期に付き合うようになり、約5年の交際した時に久枝の妊娠が判明し、正式に籍を入れた。
籍を入れた時には、娘は中学生という多感な時期ではあったが、俺と久枝の結婚を受け入れてくれ、息子の光一を弟として可愛がってくれた。
ただ、義理の娘の教育については俺は口出しすることが出来ない理由から、光一の教育についてもほとんど関わることをしてこなかったのが、今の事態を招いてしまったのだった。
吉本「夏休みもう終わるけど。いつこっち帰るの?」
久枝「あら?ちゃんと分かってたんだ。」
吉本「そりゃ、まぁ。」
久枝「暫く実家から通わせるわよ。」
吉本「え?八王子からじゃ遠すぎるだろ。」
久枝「電車で1時間足らずよ。横浜まで通えなくはないわ。」
吉本「こっちからなら1時間かからないだから、こっちから通わせろよ。」
久枝「そっちに帰ったら、またあなたと揉めて、そっちの方が光一の受験には悪影響よ。」
吉本「なぁ。光一の気持ちは聞いたのか?内部進学じゃダメなのか?」
久枝「光一は、高校受験することを前提に頑張ってるわよ。」
吉本「そうじゃなくて、本当はそのまま内部進学の高校に行きたいんじゃないのか?」
久枝「だから、このやり取りが無駄なのよ。」
吉本「なぁ。光一は俺の子供でもあるんだぞ?俺の考え方は、受験も含め、自分自身で考えるのが1番いいっていう…。」
久枝「まだ中学生よ。親が真剣に考えないで、どうするのよ!」
吉本「真剣に考えているからこそだ。別に俺は受験に反対はしていない。」
久枝「反対してるわよ。」
吉本「俺は、中学受験に失敗したから高校受験を考えているなら、反対なんだ。」
久枝「何が?」
吉本「もし、親のプライドのために高校受験をさせようとしてるなら、俺は断固反対だ。」
久枝「違うわよ。光一なら、やれると思うから…。」
吉本「その言葉が、親のプライドなんだ。」
久枝「………。」
吉本「夏休み終わる前に、一度帰ってこい。」
久枝「そっちに帰るかどうかは、考えとく。」
吉本「分かった。」
俺は妻との通話を切ると、既に電源が切れた加熱式タバコのカートリッジに再度タバコをセットした。
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