ドライブをしている内に次第に心は前向きになっていった。
自分は一人じゃない。
助けてくれる仲間もいる。
今は、とにかく自分に出来ることだけをやろう。
社会人になって、リスクばかりを恐れて思いきったことをしなくなっていたと思う。
若い頃みたいに、先のことを考えずに、今を全力で楽しむ。
それでダメなら仕方ない。
もしかしたら、また落ち込む時もあるかもしれないが、それもまた人生だ。
そう心に決めると、また明日から頑張れるような気がしてきた。
翌日からは、またいつも通りの日常が戻れた。
出勤すると、小坂さんから、パソコンのワード内に引き継ぎ事項のデータがあった。
その引き継ぎに従って発注を終えると、夕方の発注商品を検討する時間も長めに取れたし、カウンターに入れる時間もいつもより多かった。
山口「時間の使い方が大分変わるな。」
そう呟きながら、私はパソコン画面に向かっていた。
小坂さんのおかげか、その日から売上が少しずつだが、改善し始めた。
昼の商品のロスが減った部分が大きいと思う。
山口「小坂さん、売上伸びてきたよ。」
翌週に小坂さんが上がる前に私は彼女に声をかけた。
小坂「あ、ホント?売れ残りがあまりないように気を付けて発注してるからね。けど、品切れとかさせちゃっても、いざお客さんが来た時に品揃えが悪いと思われてもダメだから、その辺りはバランスが難しいよね。」
結わいている髪をほどきながら答える彼女。
山口「でも、廃棄商品が減るのは良いことだよね。」
小坂「まだこれから、どうなるか分からないけどねぇ。夏の暑さはまだまだ続くし。」
山口「そうだよね。しかし、今まではあらゆる業務を抱え込みすぎてたなぁ。」
小坂「それはそうだよね。あまり、一人が仕事抱えると良い結果出ないよ。まぁ、社員が小坂君一人なのもあるけど。」
山口「まぁ、俺が来た時はブロックダントツ最下位の店だからね。でも、この売上なら、何とか下の上くらいまでは回復させられるかも。こういう店舗は、一見さんとかがあまり期待出来ないから、駅前とかの店に比べたら売上伸びないけど、下の上までいけば、大成果だよ。」
小坂「そっか。じゃあ、目標決めて頑張らないとね。あ、そういえばさ、美起の件で、ちょっと進展あったんだけど、今日時間ある?」
山口「あ、うん……。分かった。」
小坂「今日主人帰ってきたら、山口君の家行くね。」
山口「うん。」
小坂「じゃあ、また後で。」
山口「うん。また。」
そういえば、小坂さんが中尾の居場所を探してくれていたことを、少し忘れかけていた。
でも、妊娠の件は堪えたが、若干吹っ切れていた。
今までも、別れては付き合って、を繰り返していたので、心のどこかそれを受け入れて、いつもの自分を取り戻していた。
でも、中尾のことは、心配には心配なので、やっぱり小坂さんの話は聞いておかないといけない。
私は早めに上がるために、今日の残りの仕事に取りかかった。
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