山口「これこれ。ほら、この前、久しぶりに出したんだけどさ。」
私は高校時代のアルバムを出して、永川さんの前に出した。
以前、中尾とも一緒に眺めたアルバムだ。
永川さんは、出されたアルバムの表紙を開いた。
永川「わ、懐かしい写真。」
永川さんは、アルバムのページをめくっていく。
山口「懐かしいよね(笑)皆、基本的な雰囲気は変わらないからね。まぁ、多少は年は取ったけどさ。」
永川「うん、うん。」
アルバムのページをめくる永川さんは素の永川さんになっている。
だが、ここで今の状況に無理矢理戻しても、また先程の永川さんに戻ってしまうだろう。
山口「この写真とか、覚えてる?」
永川「あ、覚えてる(笑)文化祭の前日のやつでしょ?」
山口「そう(笑)お化け屋敷の仮装の練習とかいう名目で、よしに皆が化粧したやつ(笑)」
永川「あれ、なかなか落ちなくて、最後、雪ちゃんが、持ってたメイク落としで頑張って落としてあげたんだよね(笑)」
山口「覚えてるね(笑)」
永川「覚えてるよー(笑)あれさ、私の持ってたグロス使われちゃって、あの後、グロス捨てたもん(笑)普通ちょっと指につけて伸ばすのに、よしが絞り出して大量に使って塗りたくってたし。」
山口「確か、よしに弁償させてたよね(笑)」
永川「うん(笑)」
次々と永川さんはページをめくっていく。
山口「あの頃はさ。誰と誰が付き合う、とかあっても、子供だったよね。」
永川「そう、だよね。」
山口「あれ?山さんから、聞いた?俺と美起のこと。」
永川「いや、何も……」
永川さんはアルバムをめくる手を止めて、私の顔を見た。
山口「距離取ってる理由さ。実は、美起、妊娠したんだよ。俺の子供。」
永川「え………?初めて、聞いた。」
山口「あ、正確にはさ、してた、だね。」
永川「してた………ってことは。」
山口「うん。堕ろしたんだよ。」
永川「………うそっ。」
永川さんは、信じられない顔をして、口を塞いだ。
山口「ホント。最初は産んでくれるのかな、って俺が勝手に思って、籍も入れる話してたんだけどね。でも、美起の考えは、違ったみたいなんだよね。」
永川「………そんな。え?雪ちゃんは、知ってるんだよね?」
山口「うん。でも、俺と美起のプライベートな話だから、山さんは、自分の口からは勝手には言えないよね。」
永川「そっか……そうだよね。」
山口「最初は俺、自分が不甲斐ないせいだと思ってさ、自分のこと責めてたんだけど、山さんが、俺のせいじゃない、誰のせいでもない、って言ってくれて。それで何とか俺も現実受け入れて、今は、堕ろした子供のこととか考えずに、仕事に打ち込んでる。」
永川「うん。雪ちゃんの言うとおり、山口君のせいではないと思うよ。」
山口「多分、美起は、初めての妊娠とかで頭混乱しちゃったんだろうな。自分の仕事がなくなったら、子供育てるとか言ってられない結論になったと思うんだけどね。まぁ、確かに俺の今の収入は高いとは言えないから。」
そう言った瞬間、永川さんの顔付きが少しだけ曇ったような気がした。
山口「まぁ、俺も若い頃から貯めた貯蓄が多少はあるから、すぐにどうこうなるとは思わないけど。」
永川「うん。今は補助とかもあるからね。」
山口「ただ、美起なりに、そういったことも考えて出した結論なんだろうね。」
永川「それは、ちょっと……何て言えばいいのかな。」
山口「まぁ、今は美起がどうしたいのか、話も出来ないから、よく分からない状況が、ここ数ヶ月続いてる。」
私は苦笑しながら言った。
永川「美起ちゃんと全然会わないんだ?」
山口「いや、ちょっと前までは、稀に来ることあったんだよね。まぁ、会っても、逃げるように出ていっちゃってたけど。」
そう言った瞬間、そういえば、ここ最近は中尾がうちに来ることはなくなっていたな、ということに気が付いた。
以前は半月に数回くらいは家に来た形跡はあり、中尾の荷物も一部残されてはいるものの、キャンプから帰ってきた日に鉢合わせて以来は一切そういう形跡が見られなくなった。
山口「どうしてんだろ。あいつ今。」
永川「分からないんだ。」
山口「そうだね……分からないや。」
少しだけ、考えてみたが検討が付かなかった。
もしかしたら、実際には来ていることに、俺が気付いてないだけかもしれない。
ただ、今はそれをゆっくり考える時間ではないことに気付き、私は話を元に戻すことにした。
山口「まぁ、そんな事情があってさ。山さんとは仕事先も今は一緒だから、色々相談させて貰ってたら。ね?」
永川「………あ。あぁ!なるほどー!」
山口「だけど、俺も、山さんは、結婚してて子供もいるからさ、本来はダメなことなんだけど、ほら。やっぱり、一人でいると、中々落ち込んじゃうところを、ね。」
永川「あ………はい。分かります。」
また永川さんは、緊張した面持ちになるが、先程よりは大分和らいでいた。
山口「だから、一応、気持ちとして、お金を形の上で払う、みたいな(笑)」
永川「はい、はい。それで、雪ちゃんも、私に話してくれた、と。現在はこういう流れですね。」
山口「うん(笑)そう(笑)あ!でも、永川さんが無理なら、それは俺も諦めるよ!」
しばしの沈黙が流れ、やがて永川さんは口を開いた。
永川「…………いやっ!大丈夫!私も自分の意思でここに来たからっ!」
山口「そっか(笑)ありがとうございます。」
永川「ううん。でも、ホントに私なんかで、お金……」
少しだけ言いづらそうにして永川さんが聞いてくる。
山口「全然払います(笑)むしろ、いいんですか?」
永川「いいです!あ……でも……1つだけ、お願いがあって。」
山口「ん?」
永川「その………する時はゴムだけは。私、雪ちゃんと違って、まだ、できちゃうかもしれないから……」
山口「あ、それは勿論です。でも、今日は、本番はしない予定なんで。高校の時の制服は、あった?」
永川「一応クリーニング出して持ってきた。娘の制服出す雰囲気醸し出して(笑)駅前のクリーニング店に。」
山口「あ、クリーニング代金出すよ。」
永川「じゃあ、領収書……」
山口「いや、いい。」
私は、財布から一万円を取り出して、永川さんの前に置いた。
山口「これで足りる?」
永川「あ、じゃあ、お釣を今。」
山口「要らないよ(笑)交通費込みで。」
永川「え?本当に?ありがとうございます。」
永川さんは椅子に座りながら頭を下げた。
永川「ちょっと、サイズ大丈夫か、確認していい?」
山口「いいよ。」
永川さんはトートバッグの中から制服を出すと、クリーニングの袋を破く。
ブレザーについては、シャツの上からでも羽織ることが出来た。
スカートを履いて、サイドファスナーを上げようと試みたが、中々上がらない。
永川「う~ん、やっぱり、スカートは無理っぽい……ごめん……」
永川さんは少し悲しそうな顔をして謝罪してきた。
山口「あ、大丈夫。ちょっと待って。」
私はクローゼットから、中尾の高校時代のスカートを出して永川さんの前に差し出した。
山口「これさ、中尾のなんだけど。」
永川「やっぱり美起ちゃんも、捨ててなかったんだ。」
山口「うん。中尾のならいける?」
永川「多分、大丈夫だと思う。」
永川さんは、私から中尾のスカートを受け取ると、ショートパンツの上から履いてサイズを確かめる。
今度はファスナーを上までスムーズに上げることが出来た。
永川「うん、いける。」
山口「じゃあ、洗面所、玄関横のドア開けたとこにあるから。どうぞ、着替えてきて下さい。」
永川「うん。分かりました。」
永川さんが、トートバッグの中に中尾のスカートを入れて、洗面所へと向かっていくのを見届けると、私は、そっと、スマホをポケットから取り出したのであった。
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