《山口編》
日曜日の夜、小坂さんから電話があり、突然の提案に私は度肝を抜かれた。
小坂「ねぇ、もし永川が私と同じようなことしてくれる、って話になったら、山口君どう思う?」
山口「え?」
小坂「いや、もしもの話なんだけど。」
山口「イマイチ、事態が把握出来ないんだけど、それって、お金払って、ってこと?」
小坂「うん。」
山口「え?それ言うの?まずいんじゃない(笑)」
私は、小坂さんの思いもよらない提案に思わず笑ってしまった。
小坂「きちんと、キャンプの話つけなきゃダメでしょ。」
山口「あ、なるほど!ごめん。ちょっと忘れかけてた(笑)」
小坂「忘れちゃまずいでしょ(笑)でも、そっちの流れの方が自然って言ったら変かもしれないけど。あり得なくもない話なのかな、って。」
山口「確かに最近は、ママ活って言葉もあるくらいだからね。」
小坂「うん。」
山口「まぁ、そうだよね。その流れからなら、俺は全然ありだよ。永川さんが嫌がってるなら、無理だろうけど。」
小坂「じゃあ、ちょっと、そういった話するのは了解しといてね。」
山口「うん。分かった。永川さんが小坂さんのこと責めるようになったら、俺が無理にお願いした、って言っていいから。」
小坂「そんなことしないよ(笑)じゃあ、明日また結果連絡するね。」
山口「うん。分かった。」
そうして電話を切り、翌日月曜日のお昼過ぎには、LINEで『OK』というスタンプと共に木曜日は予定は大丈夫か確認のメッセージが入っていた。
その日の夜小坂さんに、木曜日は大丈夫だ、と答えると共に、永川さんも制服があるならぜひ持ってきてほしいと伝えてほしい、と小坂さんにお願いしたところ、翌朝には、本人には伝えたが、持ってくるかどうかは当日にならないと分からない、と返信があった。
そうして迎えた木曜日の午前10時過ぎ。
ピーンポーン
リビングを軽く片付けていたところで、部屋のインターホンが鳴った。
私は玄関に小走りで向かい、ドアを開けると、そこには白色半袖シャツとカーキ色のショートパンツを履いた永川さん立っていた。
永川さんの表情は、見ているこちらにまで緊張感が伝わってくるくらいに、明らかに強張っていた。
山口「あ。こんにちは。」
永川「あ、あ。いや、ごめん。やっぱり、帰るからっ!」
山口「ちょっと、ちょっと(笑)とりあえず、上がっていってよ(笑)遠くから来たんだし、それに外で長話したら、逆にあやしい(笑)」
永川「そ、そう、だよね。」
無理な作り笑いをしながら、永川さんは、まるで、学校で初めて全生徒の前に立つようなぎこちない動きをしながら、部屋の中に入った。
永川「お、おじゃま、します。」
山口「あ、スリッパ使ってね。」
永川「ありがとうございますっ!」
山口「いやいや、緊張しすぎじゃん(笑)」
永川「う、うん。してます。あ、これ、お昼ですよっ!」
永川さんは、デリバリーピザの箱が二つ入った箱を私に渡してきた。
山口「あ、何かすみません。小坂さんに言われた?(笑)」
永川「そ、そうなのですっ!」
山口「ちょっと、ちょっと(笑)一回落ち着こう?(笑)何か、これだと俺が逆に何も話出来ないから(笑)」
永川「すっ、すみませんっ!」
山口「とりあえず、お茶入れるから(笑)あ、リビングこっちね。」
永川「はいっ!」
私は永川さんをリビングに案内した。
山口「適当に座って。」
永川「はいっ!」
永川さんは、私が席に座るように促すと、ネズミが猫から逃げるような早さで、一番近くの椅子に座った。
私は、カップボードからコップを出して、アイスコーヒーを注ぎながら、永川さんに聞いた。
山口「運転大丈夫だった?」
永川「大丈夫でしたっ!」
山口「そんな緊張してるのに?(笑)」
永川「あ、いや、これはインターホン押したら急にっ!」
山口「そうなんだ(笑)」
私はアイスコーヒー、ミルク、ガムシロップとスプーンをお盆に乗せてリビングに座る小坂さんの前に出した。
山口「右手がこんなだから、ごめんね。」
永川「あっ!逆にごめんなさいっ!ケガしてる人にっ!」
山口「大丈夫(笑)小坂さんに聞いたよね?事故のこと。」
永川「聞きましたっ!大丈夫、ですか?」
山口「うん(笑)とりあえず、骨折だけだったから。」
永川「命は助かって、良かったですっ!」
山口「そ、そうだね(笑)あ、落ち着いて、とりあえずコーヒー飲んでよ(笑)」
『これは、まずは永川さんの緊張解かなきゃどうにもならないな。』
そう内心で考えながら、ぎこちない動きでミルクやガムシロップをアイスコーヒーに注いでいる永川さんの様子を観察した。
小坂さんの場合は、自然とは言い難いかもしれないが、一応は自然な成り行きで、キャンプ場では男女の関係になり、更にケガをした私の世話、という名目があったので、こうした緊張感は感じさせない余裕みたいなものがあったが、永川さんの場合は、入り方が違うので緊張するのも当然だった。
私自身も、永川さん程ではないにしろ、多少の緊張はあるが、そこは彼女にばれないように押し隠している。
しかし、ここまで緊張している永川さんを見るのは初めてのことで、逆に彼女の雰囲気からにじみ出る可愛らしさが際立つように見えてしまう。
私は、何とかして永川さんの緊張を解きほぐす、という最初のミッションに取りかかった。
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