その日の夜9時頃に小坂さんからの電話が鳴った。
永川「もしもし?」
小坂「もしもし。今、電話大丈夫?」
永川「あ、後でかけ直すね。」
小坂「うん。分かった。」
私は、電話を切って、味噌汁を食卓に座る夫の前に出す。
永川夫「だれ?」
永川「小坂さん。」
永川夫「小坂さん?」
永川「高校の同級生。結婚式来てくれたじゃん。」
永川夫「ふーん。」
夫は、そのまま食事を始めて、食べ終えるとそのまま浴室に向かった。
永川「やっぱり、興味ないよね。私のことなんか。」
夫がお風呂に入ったのが分かり、私は独り言を呟く。
別段、夫が悪い人という訳ではなかった。
休みの日には子供と遊んだり、年に一回は旅行に行ったり。
ただ、夫婦仲として考えると、やっぱり冷めてしまっているような気がした。
私は小坂さんに電話をかける。
永川「もしもし。ごめん。夫にご飯出してた。」
小坂「あ、そっかそっか。ごめんね。」
永川「ううん。全然大丈夫。今、お風呂行ったから。」
小坂「うん。昼間の話なんだけどさ。」
永川「うん。」
小坂「ビックリしてたよ(笑)山口君。」
永川「やっぱり、そうだよねぇ。」
小坂「あ、でも永川がいいなら、ぜひ、って言ってた。」
永川「え?ホント?」
小坂「うん。だから、言ったじゃん(笑)永川かわいいから。」
永川「いやいや。全然、おばさんだから。」
小坂「あんまネガティブにならないで(笑)」
永川「まぁ、そうなんだけどね。」
夫のさっきの態度を見た後では、ネガティブになるのも仕方なかった。
きっと、夫との夜の生活がもう少し充実していたら、昼の小坂さんの提案も断っていたと思う。
小坂「今週は時間あるの?」
永川「木曜日なら、子供の学校の帰りが1時間遅いよ。」
小坂「明々後日か。私は仕事の日だけど。山口君、休みどうだろ。永川は大丈夫なの?」
永川「大丈夫、かなぁ。」
小坂「分かった。後でLINEするね。」
永川「うん。」
小坂「じゃあ、また。」
永川「うん。じゃあね。」
小坂さんとの電話を切って、私は大きく息をついた。
『こうなったら、後は流れに身を任せよう。いけないこととは分かっているけれど、お金が貰えるんなら、万々歳じゃない。』
私は自分に言い訳をしているのを分かっていながら、そう心の中で言い聞かせた。
暫くして、小坂さんからLINEが入る。
小坂『木曜日、大丈夫だって。もし、可能なら制服があるといいな、だって(笑)』
永川『制服(笑)ちょっと、実家帰って見てみないといけないなぁ。』
小坂『無理なら仕方ないんじゃない?(笑)』
永川『とりあえず、見てはみるよー(笑)』
小坂『あ、後、もう一つお願いなんだけど、山口君、右手骨折してて食事が不便だから、左手でも食べられる食事用意してあげてもらえると、助かります。私が(笑)』
永川『うん、分かった(笑)昼と夜の食事用意すればいいんだよね?』
小坂『うん。出来合いのもので大丈夫だよ。』
永川『分かったー。』
小坂『あと、山口君の家分かる?』
永川『T駅前のマンションとは知ってるけど、詳しくは分かんないや。』
小坂『じゃあ、住所送るね。』
小坂さんから、山口君の家の住所がマップと一緒に送られてきた。
私も高校までは住んでいた地元なので、道はすぐに分かった。
小坂『ここの701号室だから。駐車場も今は空いてるから、外駐車場の15番に停めて大丈夫だよ。また分からないことあったら前日でも、LINE頂戴。』
永川『分かった!』
こうしてLINEを終えると、私は食器を洗うためにキッチンに行った。
永川夫「じゃあ、そろそろ寝るわ。」
永川「うん。おやすみー。」
夫は、何も言わずにリビングを出て寝室に行った。
永川「おやすみ、くらい返しなさいよね。」
私は夫への不満が急激に大きくなっていた。
自分自身が悪いことをするのを、夫に責任転嫁させていることも分かってはいたが、それでも、もう少し私に目を向けてくれてもいいと思う。
そう思いながら、私は食器を洗い流して食洗機へと食器を入れていった。
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