ピーンポーン
インターホンが鳴り、私は室内のモニターを見ると、小坂さんが立っていた。
永川「あけまーす。」
私はエントランスのオートロック解除ボタンを押すと、玄関の扉を開けて、小坂さんが来るのを待った。
部屋に一番近いエレベーターの音がして、中から小坂さんが現れた。
永川「雪ちゃん、いらっしゃい!」
小坂「あ、永川。突然ごめんねぇ。こっちの方滅多に来ないから。」
永川「だよねぇ。用事は大丈夫?」
小坂「昼過ぎだから、大丈夫。」
永川「そっか。入って、入って。」
小坂「おじゃまします。あ、これ皆さんで食べて下さい。」
永川「ありがとう。あ、お茶入れるから、適当なとこ座って。」
私は小坂さんからお土産を受け取ると、お茶を入れる準備をする。
永川「キャンプ以来だから、久しぶりじゃないけど、皆元気かなぁ。」
私は紅茶とお菓子を出しながら、席に着く。
小坂「いやさ。実は山口君が、今月の頭に事故っちゃってさ。」
永川「え!?大丈夫なの!?」
小坂「うん、大丈夫、大丈夫。右手骨折しちゃったけど。」
永川「右手って、山口君、利き腕だから、大変じゃん。」
小坂「うん、生活は大変そうだよね。」
永川「美起ちゃん、戻ってきたの?」
小坂「ううん、まだ戻ってこないよ。」
永川「ええ?二人に何があったの?」
小坂「んー。知ってはいるんだけど、ね。」
永川「そう……なんだ。」
その瞬間、私はキャンプ場の夜がどうしても頭の中に浮かんでしまった。
二人が別れたのは、小坂さんとの不倫以外には思い浮かばなかったからだ。
私が考えこんでいると、小坂さんが口を開いた。
小坂「あの、さ。」
永川「ん?」
私は考えていたことを悟られないように、精一杯の作り笑いをした。
小坂「いや、先月のキャンプの夜さ。」
私は笑顔のまま、顔が凍りついた。
小坂「私が、山口君と、してたの気付いてたよね?」
私は何と答えていいのか、分からなかった。
それくらいに、自分でも、頭が混乱しすぎていた。
永川「え?」
小坂さんは、罰が悪そうに言葉を続ける。
小坂「いや、コテージの私の部屋で、山口君としてた場に鉢合わせたでしょ?」
ばれていた。扉一枚を隔てて、私が、小坂さんと山口君がエッチをしていたところを覗いていたことを。
永川「あー………いや………そんなつもりじゃなかったんだけど。ごめん。」
小坂「やっぱり(笑)いいの、してたのは事実だから。永川は悪くないし。」
永川「いや、ホント、雪ちゃんがちゃんとコテージ戻れたか、確認しにいっただけなんだけどさ。たまたま……ね。」
小坂「だよね。あ、でもね。あの日が初めてだったの。山口君としたのは。だから、山口君と中尾が距離置いてるのは、それが理由じゃないんだよ。」
永川「あ、そうなんだ。」
小坂「うん。むしろ、二人の距離置いた理由を知っちゃったから、私も、山口君とそうなっちゃった、っていうか。詳しい理由は言えないんだけどね。」
永川「そっか。そうなんだ。」
私は紅茶に口をつけると、小坂さんもティーカップを口に運ぶ。
小坂「それに、実はさ。」
永川「うん。」
小坂「お金、貰ってるんだ。山口君に。」
永川「え?それって、援交的な?」
小坂「うん。まぁ。」
永川「えぇぇ!!?」
私はショックだった。
高校の頃、確かに援交している女子もいたし、私も見知らぬ男の人に持ちかけられた経験はあった。
勿論、私は断ったし、一度小坂さんも一緒に持ちかけられた際に、彼女は相手にもしないで無視をしていた。
だから、小坂さんが、まさかそういったことをしている、そして、それが仲の良かった男子相手にしていることがショックだった。
小坂「軽蔑するよね。でも、山口君としか、そういうことはしてないよ。」
永川「う、うん。」
私は、さっき小坂さんに、山口君とのことを切り出された時以上に頭が混乱していた。
小坂「あ、でも別に、お金に困ってる訳じゃないの。主人ちゃんと、それなりに稼いでくれてるし。私も最初そんなつもりじゃなかったんだけどね。ただ、やっぱり子供の養育費とかの将来考えると、お金が一切要らない訳ではないし。」
今の小坂さんの言葉はズシリと私の心に重くのしかかった。
永川「やっぱり、お金かかるよね……」
小坂「うん。三人とも私立の大学とか行かれたら、結構家計詰むかも。」
永川「そうだよねぇ。」
私達の頃と違い、中高一貫教育が最近は地方にも波及してきており、私の住む地域にも、最近は公立の中高一貫校が新設された。
小坂「せめて長男と次男には国公立行ってもらいたいんだけどさ。そうすると、小学生のうちから、ちゃんと勉強の環境は整えてあげたいし。」
永川「うちも、そろそろ考えないといけないのかなぁ。」
正直、私が働いていた頃は、私は夫よりも稼いでいた。
しかし、2人目の妊娠を機に仕事をやめてからは、家計は楽ではなかった。
夫は、私に仕事を続けて欲しがっていたが、私自身の身体が持たないと思い、それを振り切って専業主婦になったが、そうすることで、生活水準は大分落ちてしまったのは否定出来ない。
思えば、夫との仲も、私が仕事を辞めてからあまり上手くいかなくなってしまったし、だから、レスにもなってしまったのだと思う。
その上、これから教育費が増えることを考えると、私もいずれ働きに出なくてはいけない、と考えたりもしていた。
小坂「だから、ある意味、山口君なら安心出来る、っていうかね。言い訳かもしれないけど。」
永川「あー。何か分かるような気がしてきたよ。うん。知らない男の人だと心配になるもんね。」
小坂「そうそう(笑)」
永川「でも、旦那さんは?」
小坂「主人?お金を貰ってるのは知らないけどね。」
永川「え?」
お金を貰ってるのは、のフレーズに私は違和感を感じた。
小坂「やっぱり、今の言葉だと変だと思うよね(笑)私が山口君としてるのは、実は主人知ってるの。」
永川「えぇ!!なにそれ!?」
小坂「誰にも言わないでよ……実は、うちの主人、変な性癖あってさ。」
永川「変な性癖?」
小坂「寝取られ、って性癖分かる?」
永川「言葉だけなら。」
一度だけ、とあるファッション雑誌に、男性の寝取られ性癖、というものが特集で組まれたのを見たことがあった。
好きな女性が他の男の人としているのに嫉妬することで満たされる。
確か、そんな内容だったと記憶している。
小坂「うちの主人、どうやら、そのおかしな性癖があるみたいでさ。山口君とのことも、許容してる、っていうか推奨してるというか。」
永川「あんなに、雪ちゃんにぞっこんだったのに?」
小坂「うん。まぁ、今でもそうなんだけどさ(笑)」
永川「だよねぇ?あんなに、雪ちゃんのことになると目の色変わる人、見たことないもん。よしですら、霞んでたし。」
小坂「一歩間違えたら、犯罪者だよ(笑)良い年なんだから、そろそろ落ち着いてもらいたいのに。」
永川「いいなぁ。羨ましいよ。」
小坂「寝取られが?(笑)」
永川「あ、違う違う(笑)今でも、昔と変わらない旦那さんのテンションにね。」
小坂「永川は最近どうなの?」
永川「うち?うちはー……正直最近は微妙かも……。」
小坂「そっか。夜の生活はあるの?」
永川「たまーにね。年に数回。でも、それも、作業チックになっちゃってる。」
私は昨日の夫とのエッチで思ったことを正直に告白した。
小坂「そっか。」
永川「うん。まぁ、子供二人いるから、いいっちゃいいんだけど。さ。」
小坂「うんうん。辛い時もある?」
永川「ない、って言ったら嘘かも。」
小坂「だよね。1人でしても、終わった後が少し寂しいからね。女の場合特に。」
永川「そうそう(笑)人肌が恋しくなる?ってよく考えられた言葉だよね(笑)」
小坂「確かに(笑)」
永川「ねぇ?ちなみに、山口君はどうなの?あっちの方は。」
私は、キャンプの日の小坂さんを思いだし、ふと気になっていたことを聞いた。
小坂「あー。うん。まぁ、上手いとか下手とかはまだよく分からないけど、あれは、それなりに大きいかも。」
永川「へー!どれくらい?」
小坂「どれくらい、って言われてもなぁ(笑)でも、最初見た時は、大きい方かな、って印象だった。少なくともうちの主人よりは、大きかった。」
永川「そうなんだ。だって、キャンプの時、雪ちゃん、凄かったもんね(笑)」
小坂「ちょっと、言わないでよ(笑)恥ずかしい(笑)」
永川「正直、ちょっとだけ、羨ましかったもん(笑)」
小坂「そう?ならさ。」
永川「ん?」
小坂「永川もしてみる?山口君と。」
永川「えぇ!?いや、無理だよ!私なんか絶対。」
小坂「いやいや、山口君、私とするよりも喜ぶかもしれないよ(笑)」
永川「いやー。無理だって。美起ちゃんにも申し訳ないし。」
小坂「中尾のことは、私も気にはしてるんだけどさ。ただ、ちょっと、根が深い部分あって。だから、山口君も、私を求めてきたのかなぁ、って。」
永川「それは、雪ちゃんだからだよ。私なんて、もう疲れたおばさんだし、雪ちゃんみたいに、スタイルもよくないし。」
小坂「じゃあさ、こんなのはどう?私が山口君に聞いて、向こうがぜひ、って言ったら。」
永川「う~ん。それって、私もお金貰ってする、ってことだよね?」
小坂「まぁねぇ。場合によっては。」
永川「場合によって?」
小坂「いや、山口君も、うちの主人と違うタイプの変態かも(笑)」
永川「えー?どんな、どんな?」
小坂「この前、高校の制服着させられた(笑)」
永川「なにそれ(笑)制服は確かに私もまだ捨ててないけどさぁ(笑)それでいくらなの?」
小坂「制服着て五千円。」
永川「制服着るだけで!?」
小坂「いや、パンツ見せてくれ、って(笑)」
永川「あ、それって、私なんだか分かる(笑)多分、雪ちゃん、高校の時、パンチラ人一倍気を付けてたからだよ(笑)」
小坂「何かそんなこと言ってたね(笑)」
永川「うん(笑)私も気を付けてはいたけど、どうしようもない時は諦めてたからね(笑)」
小坂「まぁ、気を付けてはいたからね。で、モデル代みたいなので、追加で五千円くれた。」
永川「一万円かぁ。」
小坂「パートでは、10時間以上かかるのが、2時間でだからね。それなりに、お金は貰えたかも。」
永川「そうなんだぁ。」
私は、すっかり小坂さんの会話に興味を持ってしまっていた。
小坂「どうする?山口君なら、手荒なことはしないし、安心感はあると思うけど。」
永川「う~ん。ホントに私なんかで大丈夫かなぁ?」
小坂「絶対、大丈夫だと思うよ?」
正直、最近は特に欲求不満すぎて、どこかで解消したい気持ちがない訳ではなかった。
ここ数年は作業チックなエッチしかしていなかったので多少の刺激が欲しいと思っていた矢先の小坂さんの申し出を、いつの間にか前向きに考えている自分がいた。
永川「美起ちゃんには、絶対ばれない?」
小坂「大丈夫だと思うよ。」
永川「じゃあ………聞くだけ聞いてみようかな。」
私は自分の欲求不満の思いに打ち勝つことが出来ず、とうとう私も、踏み入れてはいけない世界に一歩足を踏み出してしまったのであった。
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