2日後のお昼過ぎ、私は中尾と一緒に近くの産婦人科へと来ていた。
あの日帰ってから、深夜まで中尾に自分の考えを伝えて、とりあえず病院に一緒に行くことには納得してくれた。
診察前の中尾は落ち着いているように見えても、自分には、どこか不安を感じているように見えた。
中尾「検査、終わった。結果一緒に聞く?」
山口「うん、もちろん。」
中尾「じゃあ、行こう。」
私は中尾に続いて診察室へと入った。
医者「2ヶ月ですね。おめでとうございます。」
中尾「………そうですか。」
医者「えーと、妊娠は初めてですよね。高齢出産ということになるんで、通常よりも検査は多いですから、これが基本的な検査計画になります。あと、後程、助産師から今後の流れについて説明があるんで、そこで詳しく聞いて下さい。」
僕達は、診察室を後にした。
二人の間に無言の時間が流れる。
本来なら喜ぶべきなんだろうが、これからのことを考えると、やはり不安がよぎる。
中尾「………2ヶ月……か。」
山口「……うん。」
中尾「どうしようかな……」
山口「やっぱり、不安だよね。」
中尾「当たり前でしょ。」
山口「とりあえず、帰ってから、ゆっくり考えよう?」
中尾「うん、そうだね。」
僕達は助産師から、今後の出産までの流れの説明を受け、役所に行って母子手帳を受け取ってくるように指示を受けた。
帰宅してからも、何だか重たい空気が漂っていた。
先に口を開いたのは中尾だった。
中尾「2ヶ月なら……まだ戻れるよ。」
山口「戻るって?」
中尾「元の形に……。」
山口「……それは、ダメだよ。」
中尾「いや、そうは言っても、だよ。色々大変だよ?収入とかの問題も含めて。」
山口「でも、美起の中にある命は俺達の命と同じじゃん。」
中尾「分かってる。分かってるよ。」
山口「なら、産もうよ。収入なら、俺も頑張って本部に戻れるように頑張るから。」
正直、自分の立場は崖っぷちなのは中尾自身も分かっていた。
この歳で本部から本部直営店の店長に異動するのは栄転とは言えない。
しかも、お世辞にも売上が良い店ではない。
ここで失敗したら、後がないのは暗黙の了解で、その場合、今の会社に自分の居場所がなくなってしまう可能性すらある。
それでも、中尾には産む、という選択をして欲しかった。
そして、自分は精一杯、それを支えるしかない。
山口「美起」
中尾「ん?」
山口「お互い、籍入れよう。」
中尾「それがプロポーズの言葉?(笑)」
山口「いや……。」
中尾「ずっと待ってはいたけど(笑)でも、山口が切り出さないから、私も事実婚状態のなぁなぁでも良いか、と思い始めてた(笑)」
山口「あ、そうか。ゴメン。」
中尾「なに、謝ってんのよ(笑)あー、なんか変なプロポーズのせいで真剣に悩んでたのが馬鹿馬鹿しくなってきた。お腹すいちゃった。とりあえず、何か食べにいこうか?」
山口「そうだね。とりあえず、体力付けないといけないしね。」
重い空気が少し晴れたのか、中尾からは久々の笑顔が戻ってきていた。
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