昼食を食べ終えて、薬を飲んでから、私は仕事に行く準備を始めた。
小坂さんは、やはり難色を示していたが、今日のうちにやらなければならない仕事もあり、店に着いたらすぐに明日の発注も入れなくてはいけない。
小坂さんは、渋々ながらもそれに納得し、条件に旦那さんが帰り次第すぐに迎えに来るので、その時は素直に帰ること、という条件を出してきたので、私はそれを受け入れた。
2時過ぎに店の駐車場に到着する。
私がお礼を言って車から降りようとすると、小坂さんが声をかけてきた。
小坂「あ、家の鍵置いてって。部屋の片付けまだ途中だから。」
山口「え、それは悪すぎるよ。」
小坂「いいから。困った時はお互い様でしょ?」
山口「じゃあ、お願いします。」
私は小坂さんに部屋の鍵を渡して車を降りた。
出勤すると、昼のクルーは私のギブスを見て心配そうに声をかけてきた。
私は心配ない旨を伝えると、バックヤードに入り、仕事に取りかかった。
まずは、急いで明日の仕入れの発注を終わらせる。
そして、昨日作成した報告書の最終点検をして、エリアマネージャーの菊地に送信した。
報告書を送信すると、私は菊地に電話をかけた。
菊地「お疲れ様です。菊地です。」
山口「あ、山口です。今、報告書送ったんで点検お願いします。」
菊地「分かりました。先輩、8月も50以上は堅そうですよ。」
山口「お、本当か。確かに中間も、悪い位置ではなかったしな。大分地域の傾向掴めてきたかなぁ。」
菊地「ですね。エリアマネージャー昇進おめでとうございます。」
山口「やめてくれよ。」
菊地「でも、昇進って言っても、先輩の場合は再昇進ですからね。」
山口「まぁ、エリアマネージャーは一回経験あるからなぁ。もう、失うものがないから、新卒の気持ちで頑張るよ。それより、菊地、一つ相談あるんだけどさ。」
菊地「なんですか?」
私は菊地に昨日の事故の件と、出来ることならば社員を一名応援で欲しい旨を伝えた。
菊地「なるほど。1ヶ月でいいんですか?治り具合によっては延長もあります?」
山口「そこは1ヶ月でいい。全力で治療する。」
菊地「分かりました。なら、副長に話して俺がいけるようにしますよ。」
山口「ホントか?助かる。」
菊地「毎日は行けませんが、週3は顔出しますよ。」
山口「ありがとう。持つべきものは優しい後輩だな。」
菊地「やめて下さいよ。先輩は、上司や同僚に恵まれていれば、今頃ブロック長までいっててもおかしくないんですから。」
山口「やめてくれよ。」
確かに若いうちは、自分で言うのも恥ずかしいが、それなりに出世のレールには乗っていた。
しかし、新規プロジェクトで、その時の同僚が上司のパワハラが原因で次第にミスを重ねるようになり、その同僚が上司に飛ばされそうになったところを、自分が上司に噛みついて、結局自分が飛ばされてしまった。
それ自体には後悔はしていない。
しかし、あの時、自分がその同僚を見捨てて保身に走っていたら、もしかしたら今頃は違った道を歩んでいたかもしれない。
そう。もしかしたら、中尾と結婚して、今頃は子供も……
菊地「あ、そうだ。先輩。その事故って、店から帰る途中ですよね?」
山口「うん。」
菊地「俺、本部にかけあって、通勤災害認められるように上手くかけあいますよ。」
山口「認められるかなぁ。夜中2時だぜ?」
菊地「いや、全然認められますよ。ちゃんと仕事してた帰りなんですから。先輩は、事故に至る経緯の報告書、お願いします。」
山口「ああ。分かった。」
菊地「じゃあ、ケガお大事になさって下さい。」
山口「ありがとう。」
菊地との電話を切り、私はパソコンの画面とにらめっこを開始した。
売上的に、バイトやパートを新規で採用しても多少余裕が出るようになってきた。
今までカツカツの中でやってきたので、小坂さんの負担も大きくなっていた。
山口「三人くらいいけるかな。」
私は、今後のことも考えて、新たにパート、バイトの募集に踏み切ることにした。
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