「K大テニスサークル、メス犬の赤里」
そう書いた紙を見て、家のリビングで項垂れる私。一度は葬り去った過去。就職と同時に都会から地方に離れ、さらに結婚して名字まで変わった。もう二度と思い出されない記憶。そう思っていただけに、目の前の現実を受け入れられない。
『あの秋川って大学生…もしかしてK大なの?ちがう、問題はそこじゃない…私の過去を知ってる人がいるのが問題よ…』
薄暗い部屋で考えても、なにも好転する材料がない。怯えたまま次の日曜日がくる。真相を確かめなければ。そう思うと息子と一緒に野球場へ。ママ友は一人もおらず、こちらを向いた秋川は息子に手を振り挨拶をする。無邪気に走り練習に向かう息子。そしてこちらに視線を向ける秋川は、私に近寄ってくる。
「見ていただけたようですね、赤里さん。」
その瞬間、私の疑念は確信へと変わる。もう呼ばれたくない名前。赤里とは、私のK大時代に使われていたハンドルネーム。散々回されて快楽と調教の限りを尽くされた、淫乱羞恥の対象。鮮明に思い出させられた記憶に、身体が震える。
『何、何が目的なの…』
キッと睨み付ける表情は夫や子供の前では見せない、本当に敵意のある視線。しかし、秋川は笑ってて
「楽しもっか、赤里。」
まるで何度も躾をしてきたメス犬を前にする主人のように、私の肩を擦り背筋を人差し指でツツーッと撫でる。私は背筋が伸びて、胸を張る。顎をくっと上げて舌を出しちゃう。その事実に気づくとすぐに元の姿勢に戻る。
「あーあ、どんなに時間が経っても、調教されたメス犬として、身体が覚えてるんだね、赤里。」
『この、くそガキ…』
「そうだよね、そのくらいの生意気さがないと、ここに来た意味がないよ。」
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