僕の中で、一瞬時間が止まってました。『ホテル。』、つまり、ひろみさんとのセックスを求められたのです。
突然のことに、すぐに答えが出ません。
あれだけ気になり掛けていた女性を、兄の奥さん、子供は2人も、年が離れすぎ、と否ばかりを考えしまいます。
『どうしますぅ~~?』
返事をごまかし、語尾を長くしたのは考えのまとまらない証拠だった。ホテルまで、あと15分程度。時間もありませんでした。
着いたのは、日曜日のお昼だと言うのにあまり客のいないホテルでした。彼女を降ろし、ドアを閉める音が駐車場に響きます。
ひろみさんは地味なセーターを着ていました。大きなお尻は、ジーンズが軽く締め上げています。
下をうつ向きながら、ホテルの入り口へと歩き始めた彼女。手に持っていた袋は、僕が取り上げました。
ホテルに入ると、普段落ち着ついている彼女が、何度も視線を変えています。ひろみさんも、もう普通ではないのです。
落ち着く振りをしているのが分かり、それは僕にいろいろと考える隙間を作ります。彼女は今、どんなことを考えているのだろう。
『私、こんなところ、あまり来たことがないのよ。』
『お兄さんのことを考えささないようにしないと。』
『出来の悪い彼とのセックス、どんな感じになってしまうのだろう。』
うつ向く彼女を見て、勝手にそんな想像をしてしまうのでした。
部屋へと入りました。
さっき確認をしたはずなのに、ひろみさんの衣服に目が行きます。セーター、ジーンズ、また納得をするのです。
地味な彼女の身体には、何一つアクセサリーはつけられてはいません。
外すことで時間の稼げない彼女は、置いてあった雑誌を手に取ります。ページがめくられますが、何も読んではいないでしょう。
僕はと言えば、彼女と変わりません。否のことばかりが頭をよぎり、もうこの後のことが上手くいくとは思えないのです。
先にお風呂に入ったのは、僕。『ヨシ兄さん、先に入る?』と子供のように薦められ、浴槽へと浸かりました。
間の持たない僕はすぐに上がり、身体を洗い始めます。チラチラと後ろを振り返り、お風呂の扉のガラスのばかりを気にします。
そこに、ひろみさんの人影が現れるのが怖かったのです。一緒に入浴ほどの余裕は、今の僕にはありません。
身体を洗い終わり、濡らした髪にシャンプーを垂らします。そして、両手で掻き始めた時、後ろから声がしました。
『ヨシ兄さん、私も一緒していい?』
振り返り、シャンプーの流れ落ちる髪の隙間から、誰も居なかったはずのガラスを見ます。
そこには、女性のシルエットが浮かんでいました。直立に立ち、手にはオレンジ色のハンドタオルが持たれています。
そのタオルは下へと長く垂れ下がり、彼女の身体を隠しています。
全裸でした。シルエットの浮かぶその女性は、もう身には何も付けてはいないのです。
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