招かれた彼女の家、そしてひろみさんの実家。つまり、この家で暮らしていた兄はマスオさん状態だったのが分かる。
なのに断らなかったのは、もうどこかひろみさんを意識しているに違いない。
女性経験の少ない僕なので、そんな感情が簡単に芽生えてしまうのは仕方がないのだろう。
そこには、ひろみさんの実の母親がいました。僕もお会いするのは数年間ぶりで、高齢で足を少し悪くしているようです。
テーブルには夕食が並びました。初めて目にする、兄家族の料理です。席を見渡せば、馴染みの薄いメンバー。
僕はすぐに萎縮をしてしまうのです。
食事が終わり、広いリビングで子供達と遊びます。久し振りに訪れた叔父の僕に、子供達のテンションが上がります。
そんな僕は、チラッと台所を見ました。ほんの数秒です。そこではひろみさんとお母さんがコソコソと話をしています。
その僅な動きだけで、僕は何かを感じとりました。話されているのは、僕のこと。やはり、招かれたのには何かあるんです。
お風呂を済ませた子供達に、もう僕は不要なようです。彼らが気になるのはゲーム。ヒゲをはやした兄弟、任天堂のあのキャラです。
そこに、ひろみさんが現れました。『子供、うるさいでしょー?疲れるねぇ~。』と言って、飲み物が手渡されます。
そして、そのまま同じソファーへと座ってくるので、僕も緊張をします。彼女とこんなに接近したことなどなかったからです。
見渡したキッチン。もうそこには、彼女の母親の姿はありません。そして、目の前で遊ぶ子供達も僕らになど目もくれません。
おかげで、僕とひろみさんの空間がそこにありました。子供の方を向いてはいますが、彼女の気持ちは、今どこにあるのでしょうか。
『ヨシ兄さん?あの話、もう聞いてます?』
突然、いや満を持しての質問だったのかも知れない。ひろみさんは、ずっとこのチャンスを探していたのです。
彼女が聞きたいのは、YESとかNOではなく、僕の気持ち。『当事者なのに勝手に進められて、迷惑をしていないのか?』だった。
『ああ、あの話でしょ?』と言ったが、『二人の、』とは言えなかった。これ以上、ひろみさんに近づくのが怖かったのです。
『迷惑よねぇ~?弟さんだし。』
呟くように言った彼女は、この話にそれ以上は触れたくはなく、締めてくれようとします。
『ヨシ兄さん、もう深く考えんとって。これ以上、私も迷惑は掛けたくないので。』と言ってくれるのでした。
その言葉はどこか残念でもあり、やっと開放をされたような感じでもありました。
肩の荷がおりた僕は、固まっていた身体を解そうとソファーのお尻の位置を変えようとします。
その瞬間、僕の指が、隣に座るひろみさんの指と微かに触れあいました。他人の指です、すぐに手を引きます。
しかし、僕の手はもう一度その指に触れていました。それにはひろみさんも気はがついたはず。
それでも、彼女の手は逃げようとはしないのです。
軽く触れあい、重なった手と手。握り合う訳でもないのに、離れようともしませんでした。
『あ~あ~、死んだぁ~。』と言ってゲームをしている二人の子供を見ながら、僕とひろみさんとの時間は過ぎて行くのです。
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