時刻は午後7時を過ぎていた。僕はひろみさんの家で、最後の夕食をご馳走になっています。
長かった二日間、なによりひろみさんと急接近の出来た二日間、それが終わろうとしているのです。
『本当にありがとうございましたぁ~!』
お互いに礼を言い合い、僕は帰路につきます。他人の家なので気を使っていた僕は、自分の部屋に戻れること嬉しく感じるのです。
我が家まで30分程度、その道のりを楽しみにしながらアクセルをふかします。
その時でした。スマホが聞いたこともない音を鳴らし始めます。それは、使ったこともないLINE電話でした。
掛けてきたのはひろみさん。たった今、別れたはずの彼女からでした。
僕が彼女の家を去り、食事の片付けをしていたひろみさん。リビングでは彼女の母親が子供達をあやしています。
『あ~!ヨシ兄さんに持って帰ってもらうの忘れてた!』
それは、庭の倉庫の前に置かれていた大きな二つの袋。中には野菜が入っていて、僕の母に持って帰ってもらうつもりだったらしい。
彼女は母親に、『ヨシ兄さん、掴まえられなかったら、そのまま坂本(うちの名字)』に行ってくるわぁ~。』と告げます。
そして、荷物を車に積み、僕に電話をしてき来たのでした。
『ヨシ兄さん、今どちらですか?』
『~~町の辺り走ってますけど…。』
『ごめんなさい。お義母さんに持って帰ってもらいたい物があったの、私忘れてて…、』
『どうしましょう?取りに帰りましょうか?』
『いえいえ~。なら、~~町にホームセンターがありますよねぇ~?そこで待っててもらえますか?』
ひろみさんにそう言われ、せっかくの帰れる喜びに水を差された気分。
それでも、言われた通りにホームセンターの駐車場に停車をするのです。
ライトを点けたひろみさんの車が現れたのは、15分くらいしてからだった。
降りた彼女は、『ごめんなさい~!私、忘れてて。』と真っ先に謝ってくる。
彼女から受け取りながら、荷物を自分の車へと積み込んだ僕だが、彼女に彼女らしくない気配を感じてしまう。
それは映画館の帰り道でも、何か浮かない顔をしていて、どこか変でした。
それに、そもそも几帳面な彼女が忘れ物をするなんて、それ事態が不自然に思えたのです。
僕の予想通り、彼女は多くのウソをついてここへとやって来ていました。
『用意していた物を、僕に手渡すのをわすれたこと。』
『そのまま坂本へ行くと母に告げたこと。』
『ホームセンターで荷物を僕に渡し、帰ってもらうこと。』
最後のは、この時点ではウソではなかったと思います。確かに、荷物は受け取りましたから。
しかし、彼女に掛けられた言葉で、それはウソになってしまうのです。
『ヨシ兄さん、このあと少しだけ時間ありますか?もし、よかったら…、』
それは、ホテルへの誘いでした。彼女は己の欲望を満たすため、普段つかないウソをついてまで、ここへと来ていたのです。
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