『あんた、ひろみちゃんのお婿さんにならん?』
それは、突然母から伝えられたこと。急に呼ばれ、母の真面目な顔を見て、ただ事ではないとは思っていたが、それ以上でした。
いつものような感じで、『そんなアホな?』という顔をしますが、母は真面目に話を続けます。
その話は僕が思うよりも進んでいるようで、うちの母、向こうの母、そしてひろみさん自身も『NO。』ではないようです。
つまり、僕の返事待ちとなっているということでした。
母の言葉は良いことばかりを並べました。もちろん、僕もいろんな言葉を使い、この話から逃げようとします。
兄の奥さんであること、子供がいるということ。年が離れていること。最後には、41歳になる彼女の容姿にまで触れていました。
結局、その場をうやむやにして終わらせたのは僕でした。YESともNOとも言わず、いつものように適当に逃げたのです。
しかし、それは母にしては好都合の結果。彼女と合わせれば、自分の意見を言えなくなる僕を知っているからです。
日曜日のお昼。ひろみさんが二人の子供を連れて、我が家へとやって来ます。
僕もすぐに呼ばれ、子供をあやし始めますが、やはりいつものようにはいきません。
母や義姉から、どんな話をされるのか気が気でないのです。
しかし、二人からは何もありません。僕に構うこともなく、いつものように義母と義娘の会話を楽しんでいます。
それは、主婦同士の会話でした。28歳にもなって、母離れの出来ない僕には大人の会話に聞こえます。
そして、見たのソファーに座って母と会話をするひろみさんの姿でした。
初めて会ったのが6年前。当時彼女は35歳でした。『おばさん。』、第一印象がそれの、老け顔だった彼女。
しかし、41歳になり、その顔も年齢に追いついてきた感じがします。そして、少しふくよかになった体型と胸。
それは彼女が、母親になった証拠。知らない間に、兄の奥さんではなく、二人の子供を持つ母親になっていたのです。
僕は、遊んでいる兄の子を見ていました。そしてその先には、僕の妻となったひろみさんの姿が見える気がします。
子供達は視界から消え、彼女一人が残ります。その妻を僕は抱き締める、そんなイメージまでしてしまうのでした。
その日、二人から何かが語られることはありませんでした。いつものように帰っていく家族を見送りますが、見ていたのは彼女だけ。
運転席に座り、後部座席の子供達を気にかけているひろみさんを僕は見ていたのです。
『よく見れば、きれいな人…。』と、都合よく書き換えられていくのでした。
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