(ん?)
目を覚ました僕ですが、置かれている状況を把握するのには少しだけ時間が掛かりました。ただ分かることは、暗くて寒い…。
身体に掛けられている厚い毛布の肌触りは、僕の部屋のものではない。
そこから、ようやくここが『ひろみさんの家』であることを理解するのです。
身体を起こした僕は、取り敢えず照明のスイッチを探します。暗くて知らない人の家です。少しだけ苦労をしました。
眩しいくらいに明るくなったリビング。ソファーを見て、自分には深い紫色の毛布が掛けられていたことが分かります。
そして隣のテーブルには、お水がなみなみ注がれたグラスが置いてありました。
酔った僕のために、ひろみさんが出してくれていたのでしょう。眠る僕に、飲まれることはなかったようです。
グラスを取り、口へと近づけると冷たくも感じ、この部屋が肌寒いと知るのです。
テーブルには僕のスマホがありました。時間を見れば、夜中の3時。寒いわけです。
僕は、またソファーへと転がりますが、照明は消しませんでした。このまま朝まで起きている覚悟なのです。
深夜3時15分。
朝まで消されないはずの照明が消えます。この家はまた真っ暗となり、深夜の静けさを取り戻しました。
その暗闇の中、2階へと続く階段を足音も立てずに上っていく人の気配。
それは、2人の子供部屋、この家の主でもある祖母の部屋に向かうことはありません。
その人物は昨日初めてこの階段を上がったはずなのに、この家に住む男の子に付き合わされ、間取りを把握してしまっていたのです。
『ギィ~。』
その部屋の扉がゆっくりと開いていきます。窓からの月明かりが、ベッドに眠る大きな膨らみを照らします。
僕は、その場で動けなくなっていました。いろいろ考えてこの部屋に来たのに、いざとなると思うようには出来ないものです。
ベッドの膨らみが動き、布団を持ち上げていきます。寝ていた人物は身体を起こし、扉に立つ人物を見つけ、こう言います。
『ヨシ兄さん?』
それは、寝起きのひろみさんでした。まだ意味も理解できずに僕の名前を呼んだようです。
時刻は3時25分。
夜が明けるには、もう少し時間が掛かりそうです。
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