古いホテル。建て付けの悪い、風呂の扉。その扉が『ギィ~。』という鈍い音を出しながら、ゆっくりと開いて行きます。
扉は途中で止まり、その隙間から女性が顔を覗かせます。ひろみさんでした。身体を見せるため、少しだけ時間が欲しかったのです。
『髪、洗った?』と見ても分かることを聞いてきた彼女に、『もうすぐ。』とウソをつきます。
僕も同じ、すぐに下半身を見せれるほどの余裕はありません。
そして、再び開き始めた扉。彼女は身体を僅かに隠していたタオルを片手に持ち、僕のいる風呂場へと足を踏み入れて来ます。
『滑るよ。』と声を掛けた僕でしたが、それもウソ。そう言いながら、彼女の身体を確かめたかったのです。
声を掛けたことは、ある意味成功でした。『大丈夫。』と反応をした彼女は諦め、僕にその裸体を見せてしまうのです。
初めて見た、ひろみさんの裸。『想像をしていたものと違うか?』と言われても、その答えは出せませんでした。
そんな想像などもう忘れてしまっていて、目の前にある本当の彼女を見るのです。
肌は、41歳という年齢を感じさせました。どこか潤いがなく、スッとしている気がします。
背中を含む、いろいろなところにホクロがあり、決してきれいな肌ではありません。
ふくよかな身体、その胸には2人の子供を育てた大きな乳房が2つあります。
お尻も大きく、やはりひろみさんも母親の身体となっているのです。
入って来たひろみさんは、僕の脇を通ると、洗面器を手に持ちます。彼女の位置から、もうぼくの下半身は見えているはずです。
しかし、身体の固まる僕を気にすることなく、自分の身体へとお湯を掛けました。
僕の緊張、そして自分の緊張、とちらもさせまいと彼女なりに自然を装っているようです。
『ヨシ兄さん、身体、細いねぇ~。』
ひろみさんも、何とか声を掛けようとしてくれます。『そう?』と返しましたが、彼女がこれ以上話を広げることはしませんでした。
きっと、『誰かと比べてる。』と思われたくはなかったからじゃないでしょうか。
そう、今の僕達には、亡くなった兄は不要なのです。
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