2)とはいっても、やはり妻の痴態をみたくなったから見せてくれと素直に頼む気にはなれなかった。自分にもどこかプライドの様なものがあったのだろう。いろいろ考えた末、R田も喜びそうな何かと交換するかたちで、妻との秘事の記録をお願いすることにした。そこで思いついたのがダイアン・レインとリチャード・ギアが主演したある映画のワンシーンだった。ふとしたことがきっかけでダイアン演じる主婦が、謎めいた若い青年との肉体間関係に溺れていく、一方でそれに気がついてしまった寝取られ夫の悲哀をリチャードが好演するというサスペンス映画であり、ご存じの方も多いだろう。その映画のなかで、青年との逢瀬を前にして、ダイアン演じる主婦が新調した下着を鼻歌まじりにつけるバスルームのシーンがあるが、この映画をみた当時、このシーンに激しく興奮したことを思い出したのだ。考えてみればこのときから、私の寝取られ癖の片鱗が見え隠れしていたのだろう。R田との逢瀬を前にした妻の様子の記録となれば彼も喜ぶに違いない、そう確信した私はすぐに行動を起こした。R田に相談し、インターネット通販を利用して掛け時計型の隠しカメラを購入した。撮影視野は上下30°、左右60°で調整でき、人感センサーで動きを感知するとカメラが作動し、動画をハイビジョン録画できるという優れものだ。もちろん自宅にこんな掛け時計を仕掛けたところですぐに不審に思われてしまうが、官舎であれば新しい掛け時計のひとつやふたつ、増えていたところであやしまれることはないだろう。
話しは前後してしまうがその頃、私は鉄筋コンクリート作りの3階建ての官舎から、病院周辺に点在する医師用住宅に仮住まいを移していた。スーパーローテートなどと呼ばれる初期臨床研修制度が軌道に乗り始めた時期であり、彼らにろくな給料を用意できない大学附属の総合病院は研修医確保のために住居等の福利厚生整備にやっきになった。その煽りを受けてこれまでの官舎を空けなくてはならず、現在の医師用住宅に移ったという経緯がある。当初はそこに不満を感じたことはいうまでもないが、意外にも今は気に入っている。垣根に目隠しされた平屋で、前の住人のセンスなのか壁紙や作り付けの棚が悪趣味と思える部分もあるが、昭和の香りが残る洋風の小さな家だ。建てられた当時はかなりモダンに映ったことだろう。ちょっとした庭もあり、教育の問題がなければ家族でこちらに移り住むことも検討したに違いない。なによりも妻が気に入ってくれた。私が都内の自宅に戻れない週末には、子供たちを埼玉の母親に預けて泊まりでこちらに来ては庭いじりを楽しんでいる。R田との逢瀬に時間を費やすことをカムフラージュするための行動ではないかという穿った見方もできなくはないが、私には純粋に田舎で過ごす時間を楽しんでいるようにみえた。
話を戻すが私が企てた計画というのは妻がこちらに来る日程でR田に妻を誘わせ、R田との逢瀬のために準備する妻、亜紀を盗撮し、それをR田に報告、そしてそれと引き換えにその後の逢瀬の様子を報告させてみようというものだ。
R田に私の悪巧みを伝えると嬉々として乗ってきた。そして彼と申し合わせたタイミングで妻に連絡をいれた。私からは<来月第2週の週末は当直が入って帰宅できないが、こっちにくるか?>と。そして、R田はその日程で初の泊まりデートに妻を誘った。予想通りに妻からは千葉には行くが掃除と少しやりたいことを終えたら、今回は泊まらずに帰ると返事があった。それと前後して、R田からは来月第2週の土曜日の晩、亜紀と幕張のホテルで会うことになったとの報告があった。万事思惑通りに進んだ。
妻が来る予定となっている土曜日の前日、宿舎に帰ると掛け時計型隠しカメラの動作確認をした。この家には姿見のような大きな鏡はないため、妻が身支度を整えるのは恐らく浴室の脱衣場にある洗面台の前であろうと当たりをつけ、洗面台の反対側の壁に掛け時計をかけることにした。以前にも掛け時計のようなものをかけてあったのか、壁の中央を上下に走る柱にフックが取り付けてあった。そこに時計を掛けた。時計からみると正面は浴室の入り口となり、肝心の洗面台は右側によってしまうが、カメラのレンズを左右に調整できる仕様になっている為、レンズを40°程右にふると洗面台の前に立つ人物を捉えることができる。準備万端整った。あとは明日、出勤前にカメラの電源を入れることを忘れないようにしなければならない。
翌朝、<洗濯物が溜まっているけど、ちゃんと自分でやるから大丈夫。>と妻に書き置きを残して出勤した。もちろん例のカメラの電源を入れることは忘れてはいない。私が宿舎に戻るのは明日、日曜日の夕方。妻は予定通りであれば今日の日中にこちらに来て、夕方には幕張でR田と会うことになるだろう。あの掛け時計のSDHCメモリーカードにはどんな画像が記録されるのだろう。いつも長く感じられる病院までの道のりであるが、気が付いたときには職員通用口にいた。出勤した職員が次々にタイムカードを押している。我々のタイムカードもあるのだが、医師の分は事務員が定時で押しているらしい。そうでないと全員が超過勤務になってしまい、保健所から指導がはいるのだという。妙に僻みっぽいことを考える自分を不思議に思ったが、根っこから寝取られ体質になってきたのではと思い、ひとり苦笑した。
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