真理子は、ようやく自宅のあるマンションに戻って来る。帰る途中に近所の奥様に出会っても、心は上の空で何を話したかも覚えていない…
真理子は鞄から鍵を出して、開けようとすると…
鍵が掛かっていない…
康介が戻って来てるのだろうか?
ゆっくりとドアノブを回してドアを開く…そこには康介の靴ともう一足、地味な婦人靴が並んで置いてある。真理子は、直感で義母 の雅恵だと気づく…よりにもよって、こんな日に義母が来るとも思わなかった真理子は、無理をして妻の顔を整えると、玄関で靴を脱ぎ掛けて…
雅恵:『あら…真理子さん、お帰りなさい。お邪魔して、ごめんなさいね…ちょっと、近くまで来たから寄ってみたのよ…』
真理子は俯いていた顔を上げる。作り笑いの表情を無理に作る…
上手く出来たかは、微妙だったが、出来る限りの笑みを浮かべて…
真理子:『あっ…お義母さん、そうだったんですか…ちょっと、今日は久しぶりに会うお友達が一緒にランチしようと言われたので…遅くなって…すみません…お夕飯、一緒に食べて帰られたら…』
真理子は、義母の前で貞淑な良妻を演じるように、出来れば一緒に食べたくもない義母との夕飯を誘うフリをして…
雅恵:『あら…お夕飯は康介がお腹減ったって言ったらね……作って上げたのよ。
今、康介が食べてるから、一緒に食べてちょうだいね。一緒に食べたいんだけどね…今、お義父さんから、電話があって帰らないといけなくなったのよ…二人で食べて…』
義母は次から次へとマシンガンのように言葉を放つ、そして、義母の後ろから康介がチラッと顔を出すと
康介:『そうだよ…もっと、ゆっくりして行ったらいいのに…』
雅恵:『康介、ごめんね…お義父さんがここに来るのもね…反対してるのよ。もう家庭を持ってるんだから、邪魔はするな!ってうるさいのよね。』
雅恵は玄関を上がった真理子の横を通ると、急ぐように靴を履き…
雅恵:『じゃあ、帰るわね…真理子さん、お邪魔してごめんなさいね。康介…あとで、ちゃんと…話しして……ね?』
雅恵は康介を見るとアイコンタクトして軽く会釈する。一瞬、真理子は何の事だろうと思うと、雅恵はドアを開けて出ていき…
真理子:『あっ、お義母さん…気をつけて…』
雅恵は真理子に軽く会釈して出て行った。
義母が立ち去った後…真理子は緊張を少し解すように溜息を吐いて…康介に話し始める。
真理子:『康介さん、お義母さん来てるなら、連絡してくれたら良かったのに……』
真理子は、いつも義母の事で康介に強く当たる事があり、それ以上は何も言わずにいて
康介:『ごめんね…急に来たからさ…それに、友達とゆっくりしてるのに気を遣わせたくなかったしね…』
真理子は、「友達…」という言葉を聞くと羽生との事を思い出してしまい言葉を詰まらせてしまう…
真理子:『あ…ぅん…ありがとう…ちょっと汗かいちゃったから…先にお風呂入っていいかしら?』
真理子は康介の目の前で自分の身体を晒す事に躊躇い、そう嘘を言ってしまう…
康介:『あぁ…ぅん…ゆっくり入っておいで…』
真理子の言葉に一瞬、康介は真理子の変わった様子が気になったが、疲れてるんだろうと思うと、真理子が浴室を向かう後ろ姿を見送ると、そのまま、リビングに戻り一人、夕食を再び食べ始めるのだった。
一方……真理子は浴室室前の脱衣場のドアを閉めると静かに鍵を落として…洗面台の鏡の前でボディストッキング姿を映して……しばらく、見つめていて…
(続く)
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