金曜日の夜8時に隣町の駅前駐輪場にバイクを止めた。
10分くらいして、Yさんが来た。
Y「ごめんねー。コインパーキングが満車でさ。少し離れた駐車場に停めてたら遅れちゃった。」
羽山「全然大丈夫です。どこで食べますか?」
Y「居酒屋でいいかな?」
羽山「え?お酒飲みます?お互い運転するんじゃないですか?」
Y「え?あ……今日もしかして家帰らないとダメ?」
羽山「いや……、大丈夫ですけど。でも、明日はお互い仕事ですよ?」
Y「うん。もちろん、そんな明日残るくらい飲むつもりはないんだけど…。ん?カラオケの続き、しない?」
羽山「あ……、それは。もちろん…したい…です。」
Y「そうだよねぇ?(笑)え?もしかして、かなり鈍感?(笑)」
羽山「そんなことないですよ!むしろ、こっちも、そのつもりでしたし(笑)」
Y「へぇ~。そうなんだぁ。」
羽山「あ、何か馬鹿にされてる気がします(笑)」
Y「別にぃ(笑)」
お互い笑いながら、近くの居酒屋に入った。
Y「とりあえず、私はカシスオレンジで。」
羽山「じゃあ、僕は生で。」
机に置かれたタブレット端末で、料理とお酒を注目する。
しばらくして、お酒とお通しが運ばれてきた。
Y「じゃあ、改めて。Y銀行、採用おめでとう。」
羽山「ありがとうございます!」
二人で乾杯をした。
Y「ふー。ホントはもう少し早い時間にしようと思ったんだけど、主人が実家着くのが7時半くらいだったから。着いたら電話する約束だから、それまでは家にいたの。」
羽山「そうなんですね。」
これを聞いて、僕とYさんは改めて、秘密の関係、つまり不倫関係なんだな、と実感した。
羽山「でも、Y銀行受かった時は、ドン底から救われた気持ちでした。」
Y「そうなんだ(笑)でも、こう言ったら変だけど、T銀行は惜しい人材を逃したなぁ、って思うわ(笑)」
羽山「そうですか?」
Y「そうに決まってるじゃない。羽山君を落としたことで、ライバル関係のY銀行に、負けたくない、って行員作っちゃったんだから。そう思ってるでしょ?」
羽山「それは、まぁ。もちろん。」
Y「そ。その気持ちは、仕事では大事なモチベーションよ。私は窓口、まぁ、テラーって言うんだけど、営業の手伝いとかもしたことあるし、行内限定だけど、融資の資格も取ったりしたのよ。FPも取ったし。」
羽山「FP?」
Y「えぇ!?ファイナンシャルプランナーの略よ。銀行入ったら聞くことあるから、覚えといて損ないと思うよ。」
羽山「ファイナンシャルプランナーは知ってますよ。でも、へぇ、何だかYさんが、本当に銀行で働いてる人に見えてきました(笑)」
Y「しつれいな(笑)10年ちょっとたつけど、ちゃんと働いてました(笑)」
羽山「いや、すみませんでした(笑)」
それから、僕はYさんの銀行時代の話を聞いて過ごした。
店舗が所在する市内のマラソン大会のボランティアに駆り出された話。
働く人、というタイトルで市の広報紙に働いている姿が掲載されて、それを見た市役所職員から、パートの人を通じて食事に誘われた話。
飲み会で、行員全員で三次会で取引先のストリップバーに行った話。
全部の話が面白おかしく脚色されている感じがしたが、どの話もオチがあって面白かった。
でも、銀行なブラックな面を聞かされると、僕は自信をなくしそうになったが、それでも自分で決めた道だったから、逃げよう、なんて気持ちにはならなかった。
そして……、午後10時になったころ、Yさんが時計を見て言った。
Y「あ、もう、こんな時間か。……そろそろ、行く?」
羽山「はい。」
居酒屋の会計も、Yさんが、また会計をしてしまった。
羽山「何か、すみません。いつもいつも出してもらって。」
Y「いいの。今日は特にお祝いだし。でも、この後のお金は出してもらえる?羽山君、男の子だし、女性に払われるのって、何か嫌でしょ?(笑)」
羽山「はい(笑)次はもちろん僕出しますよ(笑)」
Yさんが、何を言っているのか、流石にすぐに分かった。
僕達は大通りから、ラブホテルが数件並ぶ裏路地に自然と姿をくらませていった。
※元投稿はこちら >>