初めての割に、Yさんは普通に後ろに乗ってくれていたので、僕も普段通り運転出来た。
Yさんは僕の肩を掴みながら、曲がる時もバイクに合わせて重心を傾ける。
僕は、なるべく広めの道路を通って一時間くらい走り、県内の海岸のある町に着いた。
Y「初めて乗ったけど、慣れてくると風が心地いいね。」
羽山「今の時期はいいんですけど、真夏とか真冬は結構きつかったりしますよ。」
Y「あー、そっかそっか。今日も少しだけ暑いけど、でも丁度いい天気だよね。」
羽山「今日はツーリング日和でしたね。」
お互いにバイクから降りて海岸沿いを歩く。
平日だから、人はほとんどいない。
Y「で、本命って、どこの会社だったの?」
Yさんは歩きながら聞いてきた。
本当は、受かって話したかったが、落ちてしまったなら、仕方ない。
カッコ悪いと思いつつ僕は話すことにした。
羽山「T銀行です。」
Y「え?」
Yさんは、立ち止まってしまったが、僕は歩き続けた。
Yさんは、僕に小走りで追い付いてきた。
Y「本当にT銀行が本命だったの?」
羽山「不採用通知書見ます?」
Y「いや、大丈夫。やー、T銀行受けたんだぁ。」
羽山「金融について調べてたら、興味わいてきて。」
Yさんは、吹き出すように、突如声を出して笑った。
Y「あははは(笑)ごめん(笑)笑っちゃダメなんだけど(笑)」
羽山「僕は本気で入行試験受けたんですよ!」
Y「うん、分かってる(笑)でもね、落ちて良かったよ(笑)本当に(笑)」
羽山「え?どうしてですか?」
Y「羽山君にはむしろもったいないよ(笑)いたから、分かる(笑)」
羽山「もったい……ない。」
Y「うん。それなら、もう一つのY銀行の方がいいって!絶対。」
羽山「一応、受けてますけど。結果まだだけど。」
Y「Y銀行受かったら、T銀行落ちて良かったと思うから(笑)ちなみに、他には金融受けてるの?」
羽山「M信金は合格しました。」
Y「ダメダメ。M信より、Y銀よ。」
Yさんは、急に笑いを止めて真剣に顔つきになっていた。
まるで、子供の就職を心配するかのような顔だった。
その後、Yさんの体験談とかを聞きながら、僕達は海岸沿いを歩き続けた。
※元投稿はこちら >>