羽山「お疲れ様でした~。」
Y「お疲れ様でした。」
仕事を夕方のクルーと交代し、僕達はバックヤードに引き上げ、お互いに挨拶する。
僕はいつも通り、Yさんが着替え終わるまでは、携帯をいじりながら、スペースが空くのを待っている。
Yさんは、出勤する時と同じように、こちらに背中を向けてから制服を脱ぎ始めた。
羽山『もしかして、下着が見えるから遠慮してるのかな?』
そう勝手に解釈した僕はYさんに声をかけた。
羽山「Yさん、LINE教えてもらっていいですか?緊急じゃない時とかでも、忘れたらいけないこととか確認しあうのに。」
自然を装いつつも、これが今日の最大の目的だった。
Y「あ、いいですよ。ちょっと待って下さいね。」
Yさんは、カーディガンを羽織ってから、こちらに向き直り、鞄からスマホを取り出し、お互いのLINEのID交換を済ませる。
Y「先にお伝えしときますけど、私、LINEの反応遅いですから、何か緊急時は直接電話下さい。」
羽山「分かりました。テスト送信でスタンプ送りますね。」
Y「はい。」
僕は、Yさんを試す意味も込めて、あるスタンプを送る。
羽山【ご飯いかない?】
僕が送信したのは、猫がご飯に誘うスタンプだった。
Yさんは、そのスタンプを見て、一瞬固まった。
そして
Y【行きます!】
という猫のスタンプを返信してきた。
僕は一瞬舞い上がりそうになったが、Yさんは、その直後に
Y「冗談ですから(笑)」
と言ってきた。
羽山「あははは(笑)」
僕は冷静を装いつつ笑うしかなかった。
Y「あ、そうだ。」
Yさんは、鞄の中から、リボン付きの小さな袋を出して僕に差し出した。
見ると、市内の有名菓子店のマドレーヌだった。
Y「この前のお詫びです。」
羽山「え?だから、気にしてないですって。」
Y「いやいや、私の気持ちの問題ですから、家で召し上がって下さい。」
羽山「そうですか…」
Y「あ、主人から電話来ました。じゃあ、帰ります。お先に失礼します。」
羽山「お疲れ様でした。」
颯爽とバックヤードから出ていくYさんの後ろ姿を僕は見送るのだった。
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