翌日、バイトに出勤すると、Yさんが制服を羽織り引き継ぎノートに目を通していた。
羽山「おはようございま……あれ?今日店長じゃないんですね。」
Y「あ、羽山さん、おはようございます!はい。今日は店長は夕方から出勤する予定です。」
羽山「そうなんですね。久々にYさんと一緒ですね。」
Y「ですね。」
今日のYさんは、いつも通りのYさんだった。
眼鏡をかけて、髪を後ろで縛り、どこにでもいるパートの主婦、という最初会った時に抱いた印象。
そんな、普通の主婦のYさんに僕は魅入られてしまい、人生を変えられてしまったなんて。
僕は制服を羽織り、Yさんから引き継ぎノートを受け取る。
Y「本日の引き継ぎは、バックヤードの整理整頓、明日から始まるおにぎりキャンペーンのPOP展開、おにぎりコーナー近くに500ペットボトルお茶を展開する、ですね。」
羽山「了解しました。」
Y「POP展開とか、外回りは、レジ点検終わり次第、私やりますので、羽山さんレジお願い出来ますでしょうか?」
羽山「はい、分かりました。」
Y「じゃあ、挨拶お願いします。」
羽山「あ、はい。それでは、朝の挨拶をはじめます。いらっしゃいませ!」
Y「いらっしゃいませ!」
僕達は挨拶トレーニングを終えて、朝番勤務員と交代する。
Yさんは相変わらず段取り良くレジ点検を終わらせる。
Y「誤差なしです。お疲れ様でした!」
朝番「お疲れ様でした。」
羽山「お疲れ様でした。」
Y「じゃあ、今のうちにおにぎりコーナー作りますね。」
羽山「お願いします。」
一年半以上働いてきて、Yさんもすっかり仕事に慣れたようで、僕以上に手際よく仕事をしていく。
そして、お互い昼休憩を終えると、3時過ぎに店長が出勤してきた。
店長「おつかれさん、Yさん、急遽悪かったね。」
Y「店長、お疲れ様です。大丈夫です。」
そう言いながら店長はバックヤードへと入っていった。
その後、夕方の勤務員と交代して、僕達はバックヤードに戻る。
店長「二人とも、お疲れ様でした。羽山さんは、出し殻今月いっぱいまでだよな。」
羽山「はい。来月早々には一人暮らしの準備したりしなきゃいけないんで。」
僕は4月からは、一人暮らしを始めることになっていた。
配属先はまだ決まっていないが、新人は初めのうちは研修も多く、本店近くの店舗に配属されやすい、と聞いていたので、本店と同じ県庁所在地の市内にアパートを借りて暮らすことにしていた。
店長「で、Yさんは今日でおしまい、か。」
Y「はい、一年半ありがとうございました。」
羽山「え?Yさん辞めちゃうんですか?」
Y「はい。子供が春休みと、今年は子供の中学受験があるんで。辞めることにしました。」
羽山「そう……なんですか。」
僕は少しショックだった。
僕が辞めても、このお店に来たらYさんに会えると思っていたからだ。
Y「じゃあ、店長。制服はクリーニングしたらまたお持ちしますね。」
店長「分かりました。今までありがとうございました。また落ち着いたらぜひ働きに来て下さい。」
Y「ありがとうございます。では、お世話になりました。」
そう言いながら、Yさんはバックヤードを後にした。
店長「この時期に辞められたのは、痛手だなぁ。」
羽山「ですね……。じゃあ、僕も上がりますね。お疲れ様でした!」
店長「お疲れさん。」
僕はYさんを追いかけるように、店を出た。
Yさんは、いつもの場所で旦那さんが迎えに来るのを待っていた。
羽山「Yさん!本当に辞めちゃうんですか!?」
Y「うん(笑)やっぱり、子供の受験見ながらパートは難しいからねぇ。」
羽山「そう……なんですか。ここに来れば、会えると思ってたんですが。」
Y「ふふふ(笑)もう、私達会うことはないよ(笑)」
羽山「もう、一生会えないですか?」
Y「さぁ?偶然どこかで会うことはあるかもしれない。でも、その時はもう、友達とも違う、赤の他人だよ。」
羽山「そうです……か。」
Y「なーに、しょげてるの(笑)たかだか一人のおばさんに会えなくなるくらいで(笑)未来ある若者が、そんなんじゃ先が思いやられるわよ。」
羽山「いや、ショックはショックですよ。」
Y「ダメダメ。私達夫婦と羽山君の関係は、公には認められないし、もう会わない方がいいのよ。あ、主人来た。それじゃあ、元気で。仕事も頑張って下さい。」
僕は無言でYさんが、ミニバンに乗るのを見送った。
今度はKさんも、車内から僕に会釈をしてくれていたが、僕は茫然と立ち尽くすしか出来なかった。
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