コーヒーショップに入り、お互いコーヒーを注文する。
再び、Kさんは口を開く。
K「確かに、羽山さんの言うことは正しいですよ。」
羽山「Yさんが好きなら、こんなこと出来ないはずだと思います。」
K「そうでしょうね。しかし、それを今私は羽山さんと話に来たのではありません。」
羽山「…………。」
K「そろそろ、羽山さんと妻の関係については終わりにしようと思っています。」
羽山「……それは!Yさんが決めるこ……」
K「妻が決めることじゃないんです。羽山さん。私達夫婦が決めたことです。」
羽山「……そうなんです…ね。」
K「羽山さん。新社会人になって、今の妻との関係がもしも周りに知られたら、あなたにとっては良いことはない。」
羽山「そんなのは、僕が自分で望んでそうなっただけですから、構いません。」
K「私達が構わなくないんです。この関係が足を引っ張った時、私達夫婦に羽山さんの責任は取れません。大学生なら自由でも、銀行員はそうはならない。妻も元銀行員だから、分かるんです。」
羽山「…………。」
それを聞いて、僕は何も言い返せなかった。
K「そして何より。妻に盲目的になられても、妻に、あなたの望みは叶えられない。何故だか分かりますか?」
羽山「Yさんは、Kさんの奥さんだからです。」
K「その通りです。私は、妻を誰にも渡すつもりはない。妻の倫理観を壊して心の奥底に眠るタガの外れた妻すらね。妻の中に眠る妻を手に入れるためなら私は手段は問いません。」
羽山「…………。」
落ち着いた声で話しているが、Kさんの目は狂気に満ちていた。
Yさんが言っていたのはこのことだったのか、と理解した。
K「そのためならば、私は妻を一時的でも他人に渡したっていい。そうすることで、妻が新たな自分に目覚めるなら私は構わない。」
羽山「Yさんの気持ちは?」
K「妻の気持ちは、もちろん大事ですよ。でも、羽山さん。妻があなたに抱かれるのを妻は拒否しましたか?」
羽山「……してないですね。」
K「妻が拒否するなら、それは諦めるしかない。でも、妻は間もなくあなたを拒否するでしょうね。」
羽山「そう……ですか。」
また暫くの間、沈黙の時間が流れた。
K「と、こんな話をするために来たんじゃないんですけどね(笑)」
Kさんは、笑いながら口を開いた。
しかし、その目は相変わらず、狂気が感じられる。
K「いきなり、今日、Yと関係を断てと言われて羽山さんは、大丈夫ですか?」
羽山「それは……いきなりすぎて。でも、僕は本当にYさんのこと……」
K「分かりました。では、あと一度だけ。一度だけ妻をあなたに預けます。」
羽山「え……」
K「但し、条件があります。私も、そこに立ち会わせてもらえますか?」
あぁ。僕のYさんへの気持ちは、この人には勝てない。
きっとこの人の内側に眠るのは、ただただYさんの全てを手に入れることなんだろう。
そして、僕はこの人にとって、その手段の一つに過ぎないんだろう。
それでも僕は、この人の手の平の上で、Yさんという女性に踊り狂わせられたんだ。
それならば、僕も最後まで踊り狂おう。
羽山「…分かりました。」
Yさんという、僕の心を奪った魔女に最後にもう一度吸い付くされたい。
そんな欲望に結局僕は勝てなかった。
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